全 情 報

ID番号 04675
事件名 雇用契約存在確認請求控訴事件
いわゆる事件名 米極東空軍丘站司令部事件
争点
事案概要  駐留軍労務者が保安上の理由により解雇されたことにつきその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法20条
日米安保条約3条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 保安解雇
裁判年月日 1957年12月9日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ネ) 1856 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集8巻6号1028頁/東高民時報8巻12号302頁/タイムズ77号34頁
審級関係 一審/04535/東京地/昭31. 8.20/昭和30年(ワ)3893号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-保安解雇〕
 本件解雇はアメリカ空軍が、いわゆる附属協定第六十九号に基き、被控訴人らが保安基準に該当するものである、との理由によつてなしたものであることは当事者間に争のないところである。しかしていわゆる保安解雇についてはその理由となるべき具体的事実が示されないのであるが、軍が真実これに該当するものと認めてなした処分であるかぎり労働者は右協定により拘束を受け、これに対して不服の申立をなすことはできないものと解すべきである。しかしながら、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定第十二条第五項及び第十五条第四項によれば、駐留軍労務者の労働関係については日本国の法令の定めるところによることとなつているのでアメリカ空軍司令部は日本人労働者が労働組合に加入したことまたは組合活動に従事したことを理由としてこれを解雇することは許されないところである、それゆえ、たとえ表面上の理由はその労働者が合衆国の保安上危険人物であるというにあつたとしても、その実質的理由が組合活動をなした点に存する場合には不当労働行為として解雇を無効と断ぜざるをえないのである。控訴人は、米軍が労働者を保安条項に該当するものとして解雇する場合には、司令官の恣意は許されず、必ず保安委員会の調査並びにその調査資料に基く議決を経、さらに司令部内の幕僚機関によつて厳正に再審査された上、決定されるのであるから、保安解雇を口実として組合活動その他の理由により解雇することはありえない、右委員会に提出される資料には組合活動に関する調査資料は含まれないのである、と主張するけれども、右保安委員会に提出される資料が保安関係のもののみに限られ、組合活動に関する調査がなされない、という点については、これを直ちに肯認しうる資料がないばかりでなく、その労働者が米国の保安上危険な人物であるか否かを判定するためには、その者の人物思想は勿論、公務上及び私生活上における行動、態度にいたるまで詳細に調査することを必要とするものであることは容易に推認しうるので、これらの調査のうちには当然その者の労働組合加入及びその活動に関するものも包含されるものと推認させるをえない、従つて本件解雇に当つても、この点の調査が行われなかつたとはとうてい考えられない。しかして、本件において、被控訴人らが保安上危険人物であると判定されるにいたつた原因たる具体的事実についてはついにこれを明らかにすることができないのであるが、本件に現われた全証拠によるも、被控訴人らがかくの如き人物であるとの疑を抱かしむるような客観的資料は全くこれを発見することができないことと、被控訴人らが原判決認定のような各組合活動を展開していたこと及びその活動に対して、フィンカム基地、サプライ・ヘッド・クォーターの人事課長A、Bその他の係官が嫌悪の情を持つていたことの原判決挙示の証拠により認めうる事実とを合わせ考えると、本件解雇は、その表面上の理由はともかく、実質的には被控訴人らが前示組合活動をなしたことを理由としてなされたものと認めざるをえない。控訴人が当審において提出援用した各証拠によるも、右認定を覆えすことはできない。その他当裁判所は原審と同一の理由により被控訴人らの本訴請求を認容するのを相当と認めるので、本件控訴はその理由なきものとして棄却すべきものである。