ID番号 | : | 04684 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 住友化学工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 約四年間勤務した労働者が学歴、レッドパージ等の職歴を詐称したとして懲戒解雇された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 労働組合法7条1号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称 |
裁判年月日 | : | 1959年3月30日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和32年 (ヨ) 1177 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集10巻2号189頁/時報184号30頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 加藤和夫・ジュリスト211号63頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕 申請人はレッド・パージによる解雇は講和条約発効後においてはその有効性は否定さるべきものであるから、この事実を秘匿したからといつて、就業規則第八九条第三号所定の重要な経歴を詐称した場合に該当しないと主張するから考えるに、元来使用者が従業員を採用するに当り履歴書や身上票を提出させるのは、従業員としての採否決定のための全人格的判断を行う資料とする外、採用後における労働条件の決定労務の配置管理の適正化、ひいて企業秩序全般の維持等の判断資料にも供するためであるから、これらの資料に虚偽の記載をなす所為はその者の不信義性を示し、労使間に要請される信頼関係を破壊するとともに前記の価値判断を誤らしめ企業秩序にも影響を及ぼすおそれがあり、それゆえにこそかかる行為は、一般に懲戒処分の対象とされるのであつて、本件においても会社の就業規則は勿論労働協約(成立に争のない乙第一六号証)にもこれを懲戒事由として規定し使用者に懲戒処分発動の途を開いているのである。ところで、申請人の場合その履歴詐称の程度は前認定のとおりその学歴職歴の全部にわたるものであつて前段説示の如き履歴書提出の意義を全く没却するものであり、殊に通常使用者が従業員を採用するに当りその最終職歴を重視する点に鑑みれば、申請人が最終職歴であるA株式会社に勤務していた事実を秘匿した行為はレッド・パージによる解雇の有効、無効を問わず会社就業規則第八九条第三号にいう重大な経歴詐称に当ることはいうまでもない。従つて、この点申請人の主張は理由がない。 (2) 次に、申請人はその経歴詐称の所為が、就業規則条項にいう重要な経歴詐称に当る場合でも、同条項には右条項該当の場合「降任ないし剥奪、懲戒休職または懲戒解雇に処する。ただし、情状によりその他の懲戒にとどめることができる」と規定されており、従つていずれの処分に付するかは情状を斟酌して合理的に定めらるべきところ、会社は情状を考慮せず懲戒解雇に価しないにかかわらず解雇処分に付したものであるから、右解雇は就業規則の適用を誤つたもので無効であると主張し、その情状として(イ)A株式会社解雇の経歴を告知すれば雇用されないことが明白であるから、生活のため詐称もやむを得ない事情にあつたこと、及び(ロ)会社入社後解雇までの四年間に会社は申請人の人格的判断をなす機会があり、その信頼に基き正常な労使関係が形成されている点を主張するのであるが右(イ)の点は申請人の経歴詐称が前示のとおり極端なものであつて、殆んど履歴書の提出なきに等しい点よりすれば、これを理由に解雇されてもやむを得ないものと考えられる事情にあること(この点は、通常履歴書の提出がなければ雇用されないという関係から推論しても明らかである。)に照し、情状軽減の事由と認めることはできない。また(ロ)の点については、証人B、Cの各証言により、申請人の平素の勤務成績は中以下に属することが窺われ、また、申請人の入社後解雇までに三年一〇月(臨時工の期間を除くと約二年八月)の日時を経過していることは前認定のとおりであるし、臨時工より社員に採用されるについては、学術試験現場の内申書等による考査を経たものであることは証人D、Bの各証言により、疎明されるのであるが右は申請人の労働能力技術が会社予定の水準にあることを示すものであるにしても、会社が申請人の経歴詐称に関係なく、新たな人格的判断により正常な労使関係を形成したもの、換言すれば、会社の事後選択により解雇の必要性が失われたものであるとは速断し難く、むしろ経歴詐称の程度が極めて高く、背信性の強い点を考慮するとき、これを打消すに足る深い労使の信頼関係が、右の如き単なる雇用の継続によつて、新たに形成されるとはとうてい考えられず、会社の申請人に対する不信の念、ひいては会社企業秩序への不安は容易に払拭されないものと認めるのが相当であるから、懲戒解雇処分による申請人の企業外排除を以て過酷に失するものということはできない。 |