全 情 報

ID番号 04685
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 鳩タクシー事件
争点
事案概要  タクシー運転手が帰庫時間および会社の納金領収時間の変更を求めたのに対して業務命令に従わないものであるとして始末書の提出を求められ、その提出を拒否したことにより解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働組合法7条1号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 始末書不提出
裁判年月日 1959年3月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ヨ) 4078 
裁判結果 認容
出典 労働民例集10巻3号490頁/時報181号29頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-始末書不提出〕
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 前記認定の如く運転手の帰庫時間と会社の納金受領時間との間に四時間ないしは二時間の間隔がある状況からみるときは、申請人が帰庫時間の午前六時までの延長又は帰庫直後における納金領収を要求したことを以て一概に会社の業務命令に従わないものであるとして申請人のみを責めることは許されないものといわなければならない。現に、証人Aもその証言において、帰庫直後に納金を受領してもらいたいとの申請人の会社に対する要求がある程度合理性を備えたものであることを認めているのである。
 このようにみて来ると、申請人がAから始末書の提出を要求されてこれを拒否したからといつて、直ちに会社において申請人が会社の業務命令に違反したとして解雇を以て臨み得る程重大な秩序紊乱とも考えられないのである。
 (三) 不当労働行為の成立
 会社の組合及びその副委員長としての申請人の組合活動に対する在来の態度が叙上のとおりであつた一方において、会社が申請人を解雇する理由とした事由がその名目どおりには是認し得ないものであることを考え合わせるときは、会社が申請人の解雇を決意した決定的な動機は申請人の上述のような正当と認めるべき組合活動その他組合及び親睦会を統合する新しい労働組合の結成運動を嫌忌した点にあると認めるのが相当である。この点に関し証人Aは、会社が申請人の解雇を決定したのは組合が解散してから一ケ月も経つた後のことであつて、申請人の解雇に当つては組合のことなど全然念頭になかつたとの趣旨の証言をしているが、前示のとおり、組合の解散は組合と親睦会とを統合する新しい組織としての労働組合を結成するための手段としてなされたものであつて、申請人は新しい組織を労働組合とすべきことを主唱し、受諾はしなかつたもののその結成準備委員に指名された程であるばかりでなく、申請人本人尋問の結果によれば、申請人は新しい労働組合の結成運動が会社の班長制実施によつて事実上停滞したとして、この状態を打開すべく新組合の結成促進について有志と相談したことがあり、このことは会社にも察知されていたことが認められるところからして、Aの右証言は上記認定の反証とするに足りない。
 してみると会社の申請人に対する解雇は労働組合法第七条第一項に違反し、労働関係の公序に反する事項を目的とするものであつて無効であり、従つて申請人と被申請人との間には現になお雇用契約が存続しているものと認めるべきである。