ID番号 | : | 04691 |
事件名 | : | 解雇無効確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 宇部興産事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | レッドパージにより解雇された者がその無効を主張したのに対し、使用者が、解雇の意思表示ののちそれを不問にし当事者間で合意解約が成立したのであり、それによって雇用関係は終了していると主張した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法3条 労働基準法2章 労働組合法7条1号 民法96条1項 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど) 退職 / 合意解約 退職 / 退職願 / 退職願と強迫 |
裁判年月日 | : | 1959年7月30日 |
裁判所名 | : | 山口地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和29年 (ワ) 292 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働民例集10巻4号782頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔退職-合意解約〕 認定の事実に徴すると、前記各解雇通告が原告等主張の各事由によつて無効であるかどうかに拘らず、原告等が前記の如き経緯から、被告に退職願を提出し、而して被告がこれを受理することによつて、前記解雇通告の効力を不問に付するとともに後記説示の理由により各原被告間の雇傭契約をそれぞれの退職願記載の日時に遡つて解約せしめる合意が成立したものと解するを相当とする。 雇傭契約は元来当事者いずれかの一方の意思表示により解約できるものであつて、その場合使用者において雇傭契約を将来に向い一方的に消滅させる意思表示を要素とする法律行為をいわゆる解雇と称するものであるが、右は労働者の右意思表示の受領を以て足り、労働者の意思如何にかかわりないものと解せられるところ、本件においては前記乙第十号証の一乃至四各通告書による被告の意思表示はまさしく右にいう解雇以外の何ものでもなく、従つて、右各通告書による意思表示について、例えば不当労働行為なり、或は労働協約違反なり、その他一切の無効原因を捨象して考慮する限り、右各意思表示は原告等がそれを受領したことによつて有効に成立し、従つて、又各原、被告間の雇傭契約は、既に原告等が意思表示を受領した昭和二十五年十月十八日を以て消滅に帰すべき筈であるから、その後の同月二十日における前記退職願の授受に合意解約としての効力を付与することは不可能であると解すべきかのように見え、而も本件においては、前記各退職願は、その効力発生の時期を、それぞれ前記のとおり各退職願記載の日附に遡及させる取扱をしたものと認められるものであるが然し本件雇傭契約の如き継続的契約にあつても(即ち、雇傭契約の解約が当事者のいずれか一方の意思表示によりなされた場合でも改めて日時を遡及して)当事者間の合意解約による場合を何ら排斥されるものでなく、これは契約自由の原則に合するものである。即ち、右は一旦解雇処分がなされた後においても、当事者間で右解雇の効力を不問に付して新らたに合意解約(契約)を締結する場合、その効力発生の時期を(処分)行為成立以前に遡及させる取扱いをすることも、第三者の利益を害しない範囲において、当事者間では有効に成立し得るものと解せられる。まして本件では合意解約とすることによつて、原告等には、前記認定の如き有利な条件が創成され原告等のため、一層利益に考慮してなされたものなのである。 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕 被告は、本件各被整理者への通告をなすに当り、事前に原告等にはからず、組合に対してさえも、唯組合三役に秘密裡に本件整理の諒解を求め、而して組合に正式にはかつたのは、本件各整理通告をなす直前乃至殆んど同時のことであつた。又、本件各整理通告書には、被通告者個人別の解雇事由が具体的に記載されておらず、且つこれを被整理者各自に知らせるための格別の手段も講じられていなかつたのみならず、通告と同時に被整理者の被告会社工場内への立入が禁ぜられ、仮令同工場へ入場することができたとしても工場内での行動に強い束縛乃至制限が加えられ、他方組合においても被告との団体交渉の席上、被告に対し解雇の具体的個別的事由の説明を求めたのに対し、被告がこれに確答を与えなかつたことを認めることができる。而して当時昭和二十五年夏から秋にかけて、先ず新聞報道関係の企業において大量の日本共産党員及びその同調者の排除が行われ、次いで電気産業、鉄鋼、石炭、造船その他の全国各種の重要産業と目される私企業体や、一部官公庁においても同様の排除措置が採られていたことは公知の事実であつて、これがいわゆるレツド・パージと称されるものであるが、前記各被整理者への通告が、右のレツド・パージの系列に属するものであること、先に認定の本件解雇基準に徴し明らかである。 〔退職-退職願-退職願と強迫〕 被告は原告等に何らの予告もせず、突然本件各整理通告を行つたこと、右通告と同時に被告会社工場内にあつた被通告者は即時右工場から退却するよう命ぜられ、而して工場内への立入が禁止され、仮令許可を得て工場内へ入場することができたとしても工場内での行動に強い制限が科せられたことは前記認定のとおりである。又被整理者への通告書を受け取つた原告等からみれば、退職願を提出するにせよ、提出しないにせよ、結局従業員として取扱われなくなると考えるのも無理はなかつたものと推認される。しかし、原告等が退職願を提出するに至つたのは、先に認定のとおり、被告会社からの要請によつたものでなく、先ず、組合及び原告等が意見を交換し合い、当時の客観的情勢を判断し且つ利害の得失を考慮し、任意退職の途を選ぶことが、原告等の利益に合するものと考え、而してこれを組合を介し被告と交渉の結果、被告もこれを諒承し、その結果各原被告間に退職願の授受がなされたものである。退職願の提出という点については、原告等は却つて能動的立場にあつたといい得る。このような事実に徴すると、原告等の退職願の提出が被告の強迫によつたものと認めることは到底できない。他に右認定を左右する証拠はない。 |