ID番号 | : | 04699 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 愛知交通事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 料金一部の未納を理由としてタクシー運転手が懲戒解雇された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 |
裁判年月日 | : | 1959年10月15日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和33年 (ヨ) 571 |
裁判結果 | : | 一部認容・却下 |
出典 | : | 労働民例集10巻6号1008頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕 昭和三十二年八月に施行された被申請人会社の就業規則第九章には、会社は従業員等に不都合な行為があつた場合はこれを懲戒する旨の定めがあり、その具体的処分として解職をなし得る場合が第二十八条に列挙されている。しかして同条第十号には「乗客より所定の運賃料金を収受してその一部又は全部を着服し、若しくはこれを流用し、又は流用せんとした時。」という記載が存在する。 被申請人は、申請人の前記料金一部未納の事実を以つて右条項に該当する行為と看做し、申請人を懲戒解雇したので考えるに右条項の「料金を着服したとき」とは従業員等が所定の料金を納入しないことが当該従業員の故意に基くものである場合を指すと解するのが、その用語及び懲戒解職事由たるの性質上相当であるところ、前示の申請人の納入料金額不足の事実は、叙上認定の事実、特に申請人において運転日報をメーターと符合させるような作為をすることなくメーターとの食違いのまま被申請人会社に差出していること、及び、通常運転手は釣銭として何がしかの金銭を予め所持し、又客からチツプを受け取ることもあることからみて、申請人の故意によるものであるとは認められず、却つて申請人はメーターが故障している事実に気が付かず、メーターによつて計算した額が正確な収受料金に相当するものと考えて、それが示した料金を会社に納入したものであることが一応認められ、被申請人の全疏明によるも申請人が右未納料金を横領したことは認められない。尤も、タクシー運転手たる者は常に収受料金の全額を会社に納入する義務があり、そのために運転日報の正確な作成が要求されているのであつて、メーターの如きは使用者において運転手の稼働成績を客観的かつ確実に把握する役割をなすものであるから運転手がメーターによつて収受料金を算出することは一の便法にすぎず、従つて申請人が運賃料金を運転日報によつて確認しなかつたことは怠慢のそしりを免れ難いけれども、メーターに故障のない限りこれによる計算は運転日報と一致すべきものであり、かつメーターは会社により定期に検査がなされ通常故障はないものと期待しうることを考慮するときは申請人の右所為も深く責めるべきものとは思われず、まして解職を止むなしとする程の重大事由とは到底考えることができない。結局、申請人には前記条項記載の事由に該当する(若しくはこれに準ずべき)非行はなかつたものと判断される。 そうだとすると、被申請人が申請人になした本件解雇の言渡は就業規則の適用を誤つたもので無効と云わざるを得ない。 |