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ID番号 04701
事件名 解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 永田鉱業事件
争点
事案概要  家事の都合により当分の間欠勤いたしますとの欠勤届を出して三カ月以上継続したことにつき、正当な理由のない無断欠勤として懲戒解雇された者がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1959年11月10日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和32年 (ワ) 684 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集10巻6号1013頁
審級関係
評釈論文 山口浩一郎・ジュリスト228号77頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 原告が昭和三十一年二月二十三日落硬により左前腕部を負傷し、同年四月三十日A病院に入院し、同年九月十五日症状固定により退院したことは当事者間に争がなく、前掲証人BC、Dの各証言と成立に争いのない乙第四号証ならびに証人E、同Fの各証言を綜合すれば、原告は右退院の後同月二十一日より再び被告会社に出勤し始めたものの前記負傷に因る後遺症のため左手使用不能の状態であつたので、坑内通気門番夫または選炭夫等の軽作業に就業方を希望したが容れられず、坑内充填夫の職種を与えられたため、その労働を満足に果すことができず、被告会社よりは原告にできる範囲のことをすればよいといわれていたけれども、その労働に不満と苦痛を感ずるようになつたので、同年十月一日より欠勤することが多くなつたこと、しかしながら原告は被告会社係員に対して右労働に対する不満苦痛を訴えて職種の変更方を申出たことは一度もなく、同月下旬頃被告会社に提出した欠勤届には単に「障害等級決定時まで」とか「人件費節約のため」とかの欠勤理由が記載してあるのみで、その後翌十一月三日に至つて提出した欠勤届にも当分の間欠勤する、その理由は「家事の都合による」という漠然としたものであつたこと、右届出を受理した被告会社としては右の届出によつて一応十一月一日より十日までを好意的に事故欠勤(届出欠勤)の取扱をしたけれども、同会社勤労主任Bは右欠勤届を理由不備であるとして前記D等に対し具体的且つ詳細な欠勤事情の調査を命じ、その際原告がその職務上の不満をもつて欠勤するのであれば被告会社としても原告の言分を聞いて善処する用意があるからとにかく出勤するようにと伝えさせたところ、原告は「用事があるのなら被告会社の方から出て来ればよい、自分が会社に行く必要はない」などといつて頑に出勤を拒みつづけ、他方被告会社を納得させるような欠勤届も提出しなかつたこと、このため右Bは十二月二十八日に至り原告に対して前記認定のごとき解雇予告を発するとともにその旨前記労働組合にも通知したところ、組合でも早速組合長C、労働部長E等が原告に対して被告会社との仲介の労をとるから出勤するように要請して原告が解雇されないように努力したが、原告の積極的拒絶にあつてその斡旋を断念するとともに原告の解雇は止むを得ない旨を被告会社に報告したこと、そこで被告会社は昭和三十二年二月十八日長期欠勤を理由として労働協約第三十四条、就業規則第八十二条第二号に従い依然として欠勤を続ける原告を懲戒解雇処分に付したことを認めるに十分である。右認定に反する原告本人尋問の結果は前掲証拠に照らし信用することができず、他に右認定を左右する証拠もない。
 およそ正常なる労使関係のもとにおいては、雇傭契約の本質に鑑み被用者が病気その他止むを得ない事由でその労務を供給することができない場合には、その旨の届出をなすべきことは事理の当然に属し、しかもその届出は、殊に相当長期に亘る欠勤が予想されるときは、ただ「家事の都合により当分の間欠勤する」というような理由の曖昧な欠勤の届出ではその理由となし難いのであつて、ある程度具体的に欠勤の事由及び見込期間を示した欠勤の届出をなすべきである(事由の如何によつては必要に応じ一応右事由を証明するに足る資料を添付すべき場合もあり得る)と解すべきである。そして、このことは前掲乙第一号証の被告会社の就業規則第三十六条においても明らかに要請されていることなのである。
 いまこれを原告の場合についてみると、原告が昭和三十一年十一月三日「家事の都合により当分の間欠勤致します。」との欠勤届を提出したまま、なんら首肯するに足りる正当な理由を示さないで、昭和三十二年二月十八日の解雇当日に至るまで三ケ月余の長期間に亘り継続して欠勤したことは前示認定により明らかである。そうだとすれば、右届出は単に形式上欠勤届というに止まり、届出としての実質的な効力を生ずるに由なきものであるから、右期間中の原告の欠勤は無届と同視すべきものであり、したがつて原告の右所為は前掲乙第一号証の鉱員就業規則第八十二条第二号に該当することが明らかであるうえに前段認定の解雇にいたるまでの被告会社、前記組合及び原告の各交渉の経過に照せば、原告の所為が前掲乙第二号証の一の労働協約第三十四条第一号に該当すると認められるから、被告会社のなした本件解雇は正当な処分であるといわねばならない(もつとも、被告会社が前記欠勤届を受理して、十一月一日より十日までを恩恵的に届出欠勤の取扱をしたとき、十一月十日以降は医師の診断書をつけねば無断欠勤の取扱をなす旨を原告に通知したとの被告の主張については、これを認定するに足る証拠が十分でないが、原告としては被告よりの右要請がなくとも自発的に前記のような不完全な欠勤届を補正すべき筋合のものであるというべきであるから、右の如き被告会社からの注意がなかつたとしても、前記認定に影響を及ぼすものではない)。
 よつて被告のなした本件解雇処分の無効確認を求める本訴請求はいずれの点からしても失当である