ID番号 | : | 04706 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 名城大学事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 農学部の教授として講座を担当し学長に任命された者が学内紛争に関連して学長を免じられたうえ学園の秩序を乱し内紛を助長したとして解雇されその効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 私立学校法36条 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1959年11月30日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和34年 (ヨ) 697 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働民例集10巻6号1228頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇権の濫用〕 先づ申請人は学長を罷免するには理事会の議決によることを要すると主張し、被申請人は理事長の権限を以てなしうると抗争するので考えるに、被申請人は学長の任免が理事長の権限に属することの根拠として第一に私立学校法第三十七条第二項の規定の存在を主張するのであるが、右規定によれば、理事長は評議員会を招集し、評議員会に議案を提出する等の法律に規定する職務を行いその他学校法人内部の事務を総括する権限を有するに過ぎない。学校法人の業務の決定については同法第三十六条において理事の過半数でなす旨の規定が存する。而して成立に争のない甲第一号証(Y大学寄附行為)の記載によれば、Y大学長は当然被申請人の理事となるのであるから、理事の地位を当然伴う学長の任免の如きは学校法人における重要な業務の一と解するのが相当であるから、右第三十六条の規定により理事の過半数をもつて決すべく、理事長単独の権限に属しないと言うべきである。次に被申請人は、理事会規則の存しない被申請人においては理事会の議決を要する業務と理事長単独でなしうる業務の決定とは理事会の慣習によつて定まると解すべきであるところ被申請人は従来学長の任免を理事長単独でなして来た慣習がある旨主張するが、かかる慣習の存在を認めるに足る疏明がない。却つて成立に争のない甲第五号証の一、第三十三号証並びにA名下に同人の捺印(同人の捺印であることは同人の第一回本人尋問の結果により認められる)があるから真正に成立したものと推定すべき同第五号証の二の各記載によれば、申請人を学長に任命するに当つて理事会の議決を経た事実が一応認められ、更に前記甲第一号証の記載によれば、Y大学の業務の決定は理事会において決定すると規定されてあり、またY大学長は当然被申請人の理事となり、評議員の互選によつて選任された理事二名と共に他の理事を選任する権限を有することが疏明せられるところからみれば、学長の地位の重要性に鑑みその任命は理事会の議決を経なければならないと解すべきである。右の如く学長の任命につき理事会の議決を要すると解する以上その罷免についても同様に理事会の議決を要するものと解するのが相当である。 〔中略〕 次に申請人は昭和三十四年八月四日付で被申請人が申請人に対してなした解雇手続は申請人の教授たる地位を剥奪するのであるからY大学々則第十条により教授会の審議決定を経なければならない旨主張するので考えてみるに、申請人が被申請人により昭和三十四年七月十七日付で学長罷免の意思表示をなされた後も農学部教授であること及び申請人に対する被申請人の同年八月四日付解雇の意思表示がY大学農学部教授の地位を剥奪するものであることは当事者間に争がない。而して成立に争のない甲第二号証のY大学学則によればその第十条に「教授会は次の事項を審議決定する」と記載され、その第三号に「教授、助教授、講師及び助手の進退に関する事項」と記載されていることが明かである。被申請人は当初のY大学学則第十条には「審議する」とのみ記載せられており、その後理事会においてこれを変更したこともないから「決定」の部分は無効であると主張するが、これを認めるべき疏明がないから甲第二号証記載のとおり「審議決定する」と規定せられているものと認めるの外はない。次に被申請人は学校経営上の理由により教授を解雇する場合は右の第十条第三号に含まれないと言うのであるが、右第三号には単に「教授……の進退に関する事項」と記載されているだけであるけれども、その「進退」の「退」のうちには全てその職又は地位の喪失を生ずる場合を包含することは明白であり、またその進退事項につき特段の制限をしていないから、教授等の地位の変更を生ずる全ての場合を包含し学校経営の都合による場合をも除外するものでないことはその文言から言つても明かである。そもそも被申請人大学において右の如き学則の規定の設けられる所以のものは憲法及び教育基本法に規定する「学問の自由」に由来する大学の自治の原理に基く。即ち学問の自由は本来学問的研究活動の自由を言うものであるが、その自由はその任命権者又は外部勢力による圧迫干渉を排除し、研究者の地位を保障するに非ざればその全きを得ない。従つて大学においては教員は研究活動の自由を保障されると共にその任免等の人事についても大学の自主性を尊重してその自治が認められているのである。それによつて学問の自由と教授の自由とが高度に維持されるのである。かくの如く大学自治の原理に基きY大学においても学則第十条において同大学の教授等の教員の任免等については教授会の審議決定(尤も審議決定と言うも教授会が免職決定権を有すると解すべきものではなく教授会は免職可否の何れかの審議の結果を決定し、これに基き理事会において免職権を有するものと解すべきである)を要するものと規定したのである。従つて右学則第十条は経営上の都合等の理由により教授を免職する場合を除外しないことは自明の理であり、かかる理事会の恣意を排斥し教授の地位惹いて学問の自由を護るためにこそ本条の存在理由があるのである。 然らば申請人の解雇に当つて申請人所属学部教授会の審議を経ていないこと被申請人の認めて争わないところであるから、右解雇はその解雇決定手続において学則違反ありというべく、その違反は究極的には学問の自由に対する侵害にもなるのであるから該解雇は無効であると言わねばならない。 |