ID番号 | : | 04708 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 高山精密事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 組合が五月二五日(午前八時)から四八時間のストに入ったのに対し、使用者が同月二六日午前三時頃からロックアウトに入り労働者を就労させなかったことにつき、右ロックアウトを違法として右就労拒否の期間中につき賃金を請求した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法3章 民法536条2項 民法623条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / ロックアウトと賃金請求権 |
裁判年月日 | : | 1959年12月24日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和34年 (ヨ) 2171 |
裁判結果 | : | 一部認容・却下 |
出典 | : | 労働民例集10巻6号1141頁/時報211号24頁/タイムズ100号86頁/裁判所時報297号5頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 三藤正・判例評論26号19頁/労働経済旬報432号9頁/労働法律旬報371号3頁 |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金請求権の発生-ロックアウトと賃金請求権〕 使用者がその責に帰すべき事由によつて休業をした場合に労働者に対して平均賃金の一〇〇分の六〇以上の休業手当を支給すべき義務のある旨を定めた労働基準法第二六条の規定と債務者の履行不能が債権者の責に帰すべき事由に基く場合に債務者が反対給付を受ける権利を失わない旨を定めた民法第五三六条第二項の規定とを比較するに、両者はその制定の精神及び要件を異にし、互にその適用を排除し合う趣旨のものではないと解すべきであるから、使用者の責に帰すべき事由によつて休業が行われたについて労働基準法第二六条の規定するところに従つてたとえ休業手当が支払われたとしても、右休業が民法第五三六条第二項所定の要件に該当するかぎり、当該労働者は使用者から休業中における賃金の全額の支払を受ける権利を失わないことは当然というべきである。 そこで本件について考えてみるに、疎明によれば、会社が上述の如く臨時休業を行うに至つたのは、単に会社において(イ)組合が会社との団体交渉の議題として昭和三四年五月一九日に提出した要求事項に検討を加えこれに対処する会社の態度を決定するためと(ロ)従前の実例に鑑みて組合が工場占拠等を伴う争議行為に出るおそれがないでもないのでこれを未然に防止するために事業場を閉鎖して置くことが必要であると判断したからであることが認められる。 しかしながら(イ)の理由からだけでは直ちに会社の行つた臨時休業が会社の責に帰すべからざる事由に基くものとは考え得ないし、また会社が(ロ)のような必要性があると判断したことが当時の客観的情勢に照らしてもつともであつたということについては何ら疎明されるところがない。 そうだとすると疎明によつて認められるとおり、右臨時休業の初日の朝申請人らを含む組合員が臨時休業の行われることも知らないで、平素のとおり出勤しながら会社によつて就労を阻止されたため、結局休業期間中労務に服することができなかつた以上、申請人らは会社の責に帰すべき事由により会社との雇傭契約に基く債務を履行することを不能にされたものと考えるべきである。 かくして申請人らは民法第五三六条第二項の規定に従つて昭和三四年五月二一日から同月二三日まで会社の行つた三日間の臨時休業期間中の賃金としてはその全額につき請求権を失わなかつたもので、その金額から会社より既に休業手当として支給された金額を差引いた残額についてなお会社に対し請求権を有することが認められる。 [中略] そもそも使用者が争議行為として行うロツクアウトは労働者の争議行為に対抗する防衛のため必要止むを得ない場合にかぎつて容認されるべきものと解すべきである。従つて争議行為を実行中の労働者に対して行われたロツクアウトであつても、労働者がその争議行為を中止して就労を請求し、その実現の確実性が存在する以上は、使用者はもはやロツクアウトを継続する根拠を失い、すみやかにこれを解除しなければならないことも当然である。 ところでさきに判示したところによつて知り得るところであるが、組合は時限ストライキの終了予定期限後ストライキ態勢を解き、申請人らその他の組合員は再び就労しようとする確実な意思を有していたのであつて、少くとも昭和三四年五月二七日の午前八時すなわち同日の会社の始業時刻以後においては会社がロツクアウトを以て対抗すべき組合の争議行為は現存せずまたその危険もなかつたはずであると認めるべきであるから、会社が依然として継続しているロツクアウトは実施当初の適否はともかくとして、少くとも前記期限以後についてはその必要性を欠くものとして違法のそしりを免れないものと解すべきである。もつとも疏明によると、その後組合において会社の業務遂行を阻害したようなことも終無ではなかつたことが窺われるけれども、いずれも会社がロツクアウトを継続している結果誘発されたものであることが疏明されている。 してみると申請人らは同月二七日以降現在まで会社の実行している違法なロツクアウトのために、いいかえれば会社の責に帰すべき事由によつて会社に対する雇傭契約上の債務の履行をすることができない状態にあるものというべく、従つて申請人らは民法第五三六条第二項の規定により会社に対する同日以降の賃金請求権を失わないものと認められる。 |