ID番号 | : | 04711 |
事件名 | : | 出勤停止処分無効確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 男鹿市農協事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 農協の「総務課長」たる地位にある者が、使用者のコピー機を使い勤務時間中に職制に対する組合加入勧誘ビラをコピーし、組合加入をよびかけたこと等を理由として出勤停止処分を受け、その効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 労働組合法2条但書1号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動 |
裁判年月日 | : | 1989年1月30日 |
裁判所名 | : | 仙台高秋田支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和60年 (ネ) 58 |
裁判結果 | : | 一部変更.認容.棄却 |
出典 | : | 労働判例538号76頁/労経速報1363号23頁 |
審級関係 | : | 一審/秋田地/昭60. 4.15/昭和56年(ワ)141号 |
評釈論文 | : | 野川忍・平成元年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊957〕209~211頁1990年6月 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕 本件は、職務外の行為ではあるが、第一次、第二次行為において、被控訴人は、本件ビラ作成につき従前の例にしたがって使用料を支払っていること、ビラの作成、配布自体によって、控訴人の業務の運営、企業秩序になんらかの支障を生じたとは認めがたく、特に第二次行為においては慣行上勤務を要しない時間帯に行われたことに徴すると、被控訴人の行った第一次、第二次行為のうち職務外の目的で控訴人の設備、器具を使用した点は、右就業規則に違反したとは認めがたいし、仮に同違反に該当し、第一次行為に対する本件指示が正当であるにしても、これに違反してした第二次行為の違反の程度は、被控訴人の職制上の前示地位を考慮に容れてもそれ程強いものとは解されない。 第二次行為のうちビラを配布した部分は、配布した数、方法、時間帯、配布先等からみて後記背信性の問題を除けば、とりたてて咎むべき事由はない。 そうすると、被控訴人が、本件指示に反して控訴人の施設器具を許可なく使用した第二次行為の違反の程度は軽度のものというべきである(背信性の点は、後記のとおり)。 〔中略〕 (二) 控訴人の総務課長職の右認定の地位、職務権限、実際上の地位、実際担当の業務内容に照らすと、被控訴人は、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の業務と責任とが、当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接牴触する監督的地位にある労働者(利益代表者)に該るというべきである。 (三) ところで、当事者間に争いのない請求の原因2(一)の事実ならびに(証拠略)、原審、当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、農協労と控訴人とは、秋田県地方労働委員会昭和五一年(不)第三号男鹿市農業協同組合不当労働行為救済申立事件につき、昭和五一年一一月一七日「農協(控訴人)における現機構下での非組合員の範囲は次のとおりとする。参事、部長、課長、支所長 ただし、昭和五一年一二月以降、事業所長ならびに総務課長補佐の職が設けられた場合には、非組合員に含めること。」など五項目につき和解をなし、右各和解事項を書面に作成し、農協労代表者及び被控訴人代表者が各記名押印した和解協定書が存したが、農協労は、昭和五四年一一月一五日控訴人到達の書面で、右和解協定書の前記部分を解約する旨通知し、同五五年二月一三日をもって九〇日間を経過したこと、また、農協労においては、古くから組合規約において「第五条 この組合の組合員は農協従業員及び中央執行委員会が認めたものをもって構成する。但し、次のものは除く。1労働組合法第二条但書第一号に該当するもの。……」と定めていたが、これが改められ、昭和五五年一一月二一日(施行)からは、右第五条但書の1が削除されたことが認められる。しかしながら右和解協定書の解約、農協労の組合規約の前記改訂にもかかわらず、控訴人の総務課長が、労組法二条但書一号に該当するものに該ることは何ら変更を受けるものではない。 労組法二条但書一号が利益代表者を掲げる趣旨は、労働組合の自主性の確保を図ることを目的としたものであるが、他方において、これらの者が労働組合に加入した場合には使用者の側における職務と責任と、組合員としての誠意と責任が牴触し、公正、明朗な労使慣行、人間関係が損われ、ひいては健全な労使関係の発展を阻害するおそれがあることを慮ったものと解される。 使用者の利益代表者である者が、組合員となり、殊に労働争議時に、職務上知り得た機密事項を漏示したり、漏示しないまでも、知り得た事実を基礎にして組合意思の形式を図って、使用者と対抗することがあったとすれば、組合においてはその自主性を損うことがないとしても、当該組合員は、使用者に対する関係においては職務上の義務違背を免れないのである。 いずれにしても、利益代表者が組合員となり、組合活動を行うことが、好ましいことではない。 (四) しかしながら、被控訴人の第一次、第二次行為は、二に記載のとおり、非組合員たる時期に、自分が農協労に加入する考えであること、他の課長職等においても農協労に加入するよう勧誘する文言の記載あるビラを作成、配布したものではあるが、第二次行為におけるビラの内容は、前示のとおり、組合加入を呼びかけたというより、むしろ第一次行為の結果報告的なものである上、いまだ農協労加入前のものであり、前項指摘のような職務上の秘密の漏示等の職務上の義務違背もなく、将来、被控訴人が農協労に加入したとすれば、そのおそれがあるというにすぎない段階にあったこと、被控訴人が総務課長に発令された経緯(後記の引用部分)を総合すると、本件第一次、第二次行為が控訴人の総務課長としての適性の有無の問題とはなりうるが、出勤停止処分に付するほどの背信性があるものとは認めがたい。 |