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ID番号 04712
事件名 不当利得金返還請求控訴事件/附帯控訴事件
いわゆる事件名 長崎生コンクリート事件
争点
事案概要  ミキサー車運転手に対する配転命令を不当労働行為とし原職復帰およびバックペイを命じた救済命令の取消訴訟において中間収入の控除がなされていないためバックペイを命じた部分が取り消されたことに基づき、使用者が右バックペイ命令に従って支払った金員の不当利得返還を請求した事例。
参照法条 労働基準法26条
労働組合法7条1号
民法703条
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / バックペイと中間収入の控除
裁判年月日 1989年1月30日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ネ) 250 
昭和63年 (ネ) 454 
裁判結果 一部変更棄却(上告)
出典 労働民例集40巻1号42頁/労働判例549号74頁
審級関係 一審/03920/長崎地/昭63. 2.12/昭和61年(ワ)225号
評釈論文 水町勇一郎・ジュリスト967号98~101頁1990年11月15日
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-バックペイと中間収入の控除〕
 1 前記認定事実によれば、控訴人の被控訴人に対する転勤命令が不当労働行為に該当する以上、被控訴人が右転勤命令を拒否したことを理由に控訴人がその就労を拒否し、これにより、被控訴人が就労し得なかつたことは、民法五三六条二項本文の「債権者の責に帰すべき事由」による履行不能にあたり、控訴人は右期間中における被控訴人の賃金の支払を免れることができないところである。
 2 しかして、民法五三六条二項但書には「但自己ノ債務ヲ免レタルニ因リテ利益ヲ得タルトキハ之ヲ債権者ニ償還スルコトヲ要ス」と定めているところであるが、右規定によると、使用者の責に帰すべき事由により就労を拒否された労働者が、これにより就労を免れた期間他の労務に服し利得を得たときは、それが副業的なものであつて、就労拒否の有無に拘らず当然に取得できる等特段の事情がない限り原則として、これを使用者に償還すべき義務があるものと解すべきところである。
 3 ところで、労働基準法二六条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中当該労働者にその平均賃金の六割以上の手当を支払うべき旨定めているところであるが、右の規定は、使用者の責に帰すべき事由により、労働者が就労を拒否され就業できなかつた場合にも適用があるものと解すべきところである。
 従つて、使用者の責に帰すべき事由により就労を拒否された労働者が他の職に就いて利益を得たときは、使用者はその償還を請求し得るが、その額は右賃金のうち労働基準法一二条一項所定の平均賃金の六割に達するまでの部分については、利益の控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当である(最高裁昭和三七年七月二〇日第二小法廷判決、民集一六巻八号一六五六頁参照)。
 そうすると、使用者が労働者に対して有する償還請求権は、平均賃金の六割を越える部分から当該賃金の支給期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することが許されることとなるが、右利益の額が平均賃金の四割を越える場合には、更に平均賃金の基礎に算入されない賃金(労働基準法一二条四項所定の賃金)の金額を対象として利益額を控除することが許されるものと解するのが相当である(最高裁昭和六二年四月二日第一小法廷判決、判例時報一二四四号一二六頁参照)。
 控訴人は、いわゆる中間収入を賃金から控除する場合には平均賃金の四割を超えることはできないが、一旦賃金全額を支払つたのち利得償還を求める場合には右限度を超え民法五三六条二項但書により中間収入の全額の償還を求めうる旨主張するが、労働基準法二六条の法意に照らし、右主張は採用できない。次に被控訴人は、本件就労不能と被控訴人の利得との間には被控訴人の他の職場における就労という積極的行為が介在しており、両者の因果関係は中断されている旨、また中間収入をもたらした労務が従前の労務と比較してより重い精神的、肉体的負担を伴うものであるときは、機械的に右中間収入の全額を償還させることは不合理である旨主張するが、被控訴人が就労を拒否された期間に被つた精神的苦痛については、前記認定のとおり、既に別訴において考慮されているところであるから、本件訴訟において重ねて右の点を斟酌することは相当でなく、被控訴人の右主張はいずれも採用することができない。