ID番号 | : | 04721 |
事件名 | : | 就労義務不存在確認請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 電々公社広島中央郵便局長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 電々公社の広島中央郵便局の局長の地位にあった者が、中国電気通信局局長室調査役としての勤務を命ずる旨の配転命令を受け、右配転命令の効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠 |
裁判年月日 | : | 1989年3月2日 |
裁判所名 | : | 広島高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和63年 (ネ) 212 |
裁判結果 | : | 取消却下(上告) |
出典 | : | 労働民例集40巻2・3号317頁/タイムズ713号149頁/労働判例556号71頁 |
審級関係 | : | 上告審/最高三小/平 3. 2. 5/平成1年(オ)694号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕 1 雇用契約ないし労働契約(以下、雇用契約という。)の存否そのものについては労働者と使用者との間には争いがないが、当該雇用契約の内容たる労働の種類、態様、場所、労働時間等雇用契約の内容の一部又はそれから派生する法律関係ないしは権利義務関係につき労働者と使用者との間に争いがあり、労働者において使用者の主張どおりの労働の種類、態様、場所、労働時間等にしたがう場合においては、労働者が法律上の不利益を受けるときは、当該労働者は、当該雇用契約の内容又は派生的な法律関係のみについて確認を求める法律上の利益を有するものと解される。 2 しかして、確認の訴えは、原則として、現在の権利ないし法律関係の存否の確認を求める場合にのみ許されるのであるから、労働者が雇用契約の内容たる労働の種類、態様、場所、労働時間等についての確認を求める訴えを提起した後、退職、定年等によって雇用契約上の地位を失うに至ったときは、当該訴えは、確認の利益を喪失したものというべきである。また、上記の訴えにおいて確認される権利ないし法律関係は、あくまで雇用契約の内容の一部についての権利ないし法律関係又は雇用契約より派生する権利ないし法律関係にすぎないのであるから、たとい当該訴訟において労働者の主張どおりの雇用契約の内容又は派生的法律関係であることを確認する旨の判決が確定した場合であっても、当該確定判決は、当該労働者とその使用者との間の雇用契約が有効に現存することをその論理的前提とするものとはいえ、このこと自体は当該訴訟の請求の目的ではないから、該判決は当該雇用契約に基づく労働者たる地位が有効に存在することまでを既判力をもって確定するものではない。 それ故、本件の如く、控訴人の求めるところの「控訴人は本件配転命令に従う雇用契約上の義務を負わないことを確認する」旨の判決が確定する前に被控訴人が控訴人を解雇し、その雇用契約上の地位を争うに至った場合には、仮に本訴において、被控訴人がなした解雇が無効であり、したがって、控訴人は被控訴人に対し雇用契約上の地位を有する旨を先決問題として判断した上控訴人の求めるとおりの判決がなされ、それがそのまま確定した場合であっても、前説示のとおり、本訴においては控訴人の雇用契約上の地位の存否については訴訟物とはなってはいないから、あらかじめ中間確認の訴えによって先決問題である控訴人の被控訴人に対する雇用契約上の地位の存在について確認しておかない限り、この点についての既判力は生じておらず、したがって、別訴によって控訴人の被控訴人に対する雇用契約上の地位の存否の確認を求める訴えを提起することは妨げられないし、当該別訴において控訴人と被控訴人との間には雇用関係が存在しない旨の判決が確定した場合には、現在の権利ないし法律関係の確定を目的とするという確認訴訟の性質上、せっかく本訴において控訴人が本件配転命令に従う雇用契約上の義務を負わない旨の確定判決を得ても、後訴によりその実効性を喪失するおそれがあるものといわなければならない。 3 したがって、本件の如く、被控訴人の従業員たる控訴人が使用者たる被控訴人の命ずる勤務命令に従う雇用契約上の義務の不存在の確認を求める訴えを提起する場合において、既に又は訴え提起後事実審における口頭弁論の終結前に、使用者と労働者との間において先決問題である雇用契約の存否それ自体につき法律上の紛争が生じた場合には、当該雇用契約の存在自体の確認を求める訴え(中間確認の訴えを含む。)とともにするのでなければ、本訴のような使用者の命ずる勤務命令に従う雇用契約上の義務不存在確認の訴えは、即時確定の利益を欠くといわなければならない。 4 本件訴え提起後、被控訴人が控訴人を解雇したことは前認定のとおりであり、当裁判所の示唆にもかかわらず、控訴人が訴えを変更する等して、控訴人が被控訴人に対し雇用契約上の地位を有することを確認する旨の訴えを追加して提起していないことは記録上明らかである。 したがって、控訴人の本件訴えは確認の利益を欠くものといわなければならない。 |