ID番号 | : | 04733 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 高速道路管理事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 会社が労働者の退職届提出により労働契約が終了したとしたのに対し、労働者が右退職届提出後、退職の意思表示を撤回しており労働契約は存続しているとして争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回 退職 / 合意解約 |
裁判年月日 | : | 1989年3月28日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和62年 (ワ) 5219 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労経速報1362号14頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔退職-合意解約〕 3 被告は、昭和六〇年三月二〇日、同年四月一日からの人事異動を発表したが、その内容の一部に、原告につき、原告の通院等を容易にさせるため主任職の肩書は残すが(この肩書が無くなると原告に手当が付かず、給与上の不利益が生ずる)実質的には主任としての職務を免除する趣旨の事項があった。 しかし原告は、主任職が肩書だけになると、将来実質のみならず形式的にも主任職の地位を奪われる危険が生ずること、夜勤免除の申請がしずらくなること、腰痛の治療に専念する必要があること、原告の妻が同年四月からはり師、きゅう師を養成する学校に入学することになっており、将来は妻の収入にある程度の期待ができること(現実に妻は、その後昭和六二年九月に右学校を卒業し、はり師、きゅう師各試験に合格し、同年一〇月その免許を得た)等から退職を考慮するようになり、昭和六〇年三月二八日ころ被告事務所に備付けの退職届の用紙を自宅に持ち帰り同年四月一五日限りで退職する趣旨で必要事項の記入をした上、なお将来訴訟を提起することも考え、これを複写して、複写したものを保管し、同年三月二九日ころ被告に対し腰痛の治療に専念する必要があること、原告の妻がはり師、きゅう師を養成する学校に通学し、将来は妻の収入にある程度の期待ができること等を理由として(ただし退職届の記載上は「一身上の都合」とのみ記載した)同日付けの右退職届を提出した。 〔中略〕 5 そして原告は、同年四月八日から同月一五日まで、退職前に年休を消化するため被告を休んだ後、同月一六日、被告から同月一五日までの賃金(前記のとおり主任の手当は継続していた)及び所定の退職金全額を受領し、また同月二〇日ころ社会保険継続のため被告に出社したが、これらの際も被告担当者に対し、退職に不満を感じている態度を全く示さず、その後も少なくとも昭和六〇年末までは被告に対し書面を交付したり、仮処分を申請する等して退職に不満であるとの意向を示すことはなかった。なお原告は、被告退職後、妻の在学中は、雇用保険法に基づく失業給付(傷病手当)の支給を受けたり、他の企業に勤務して収入を得ていた。 〔中略〕 以上の事実によれば、まず客観的な事実として退職届の提出、受理により、原告と被告との間において本件労働契約の合意解約の合致が成立したことは明らかである。ところで原告は、当時退職の意思は全く有していなかったとし、これにそう供述をする。しかし以上の事実によれば、原告は、退職届提出後、送別会に出席し(原告が出席をためらったのは退職が不本意であるということにあるのではなく、飲食をすることが体調に合わないということにあったにすぎない)、退職前に年休を消化し、所定の退職金を受領したこと、また右送別会やその後の退職金受領等の際、同僚や被告担当者に対し退職の意思がない旨を表示してはいないこと、さらにその後も被告に対し書面を交付したり、仮処分を申請する等して退職に不満であるとの意向を示すことはなく、かえって失業給付の支給を受け、他の企業に勤務して収入を得ていること等の事実が認められるものであり、したがって原告はそもそも退職届提出に際しても既に退職の意思を有していたものと推認することは十分に可能であるが、仮にその真意においては退職の意思が無かったとしても、右の事実に照らせば、被告において右原告の内心の意思を了知していたとの事実は、到底認めるに足りないものである。 〔退職-退職願-退職願いの撤回〕 原告本人尋問の結果並びにこれにより原本の存在及び成立の真正が認められる(書証略)によると、原告が、昭和六〇年四月一三日治療を開始した医師から頸椎骨軟骨症等の病名で約三カ月の休業加療を要するとの内容の診断書の交付を受けたことが認められ、これによると同月一五日に被告のA課長と退職につき何らかの交渉をしたことを推認する余地もあるが、前記の事実、特にその後被告が退職金を支払っていること、原告もこれを受領した上、しばらくの間は被告に対し退職に不満であるとの意向を示すことはなく、かえって失業給付の支給を受け、他の企業に勤務して収入を得ていること等の事実に照らすと、右交渉において退職の意思の撤回と解される態度は示されなかったものと解するのが相当である。 |