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ID番号 04736
事件名 懲戒免職処分無効確認請求/宿舎明渡等反訴請求/寮明渡請求事件
いわゆる事件名 国鉄郡山機関区事件
争点
事案概要  成田空港二期工事反対闘争において逮捕された国鉄職員に対する懲戒免職処分の効力が争われた事例。
参照法条 日本国有鉄道法31条1項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行
裁判年月日 1989年3月30日
裁判所名 福島地郡山支
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 35 
昭和62年 (ワ) 87 
昭和62年 (ワ) 239 
裁判結果 一部認容棄却
出典 労働判例538号46頁/労経速報1366号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務外非行〕
 原告Xの本件懲戒事由である「原告Xが十字路事件において、投石集団中にいて逮捕された」事実を肯認できるか検討することとするが、右検討に先立ち、被告清算事業団も原告Xが実際に投石行為を行ったとまで主張していないことから、「投石集団中にいた」という事実が非常に重要であり、したがって、その言葉の意味を明確化しておく必要がある。「投石集団中にいた」とは、一般的には、投石行為を現実に行っている多数の人間と一緒にいたことと理解され(原告Xは、本人尋問の際に、「投石集団というのは、常識的に考えて、一〇〇人いたら、ほぼ一〇〇人が一緒に投げている」ことを指すと供述している。)、また、懲戒処分の対象とされていることをも加味すれば、現実に自らも投石を行うことは当然のこととし、少なくとも、現実に投石行為を行っている人間に対し、投石行為を容認し、これを容易にする諸々の行為を行うなど、投石行為を現実に行った者に対する否定的評価と同等もしくはこれに近い評価を与えられるものでなければならない。もし、このように解さず、「現実に投石行為を行った者と一緒に本件集会に参加していた」というような意味で足るとするならば、後述するように、逮捕された事実自体から犯罪行為を行ったと認定することが許されないことと相まって、「投石集団中にいて逮捕された」という本件懲戒免職の中核的事由自体が、労働者が勤務時間外に集会に参加するという憲法で保障された市民的自由を否定しかねないものとなり、たとえ本件当時、国鉄の再建が国家的緊急課題であり、国鉄職員の廉潔性が強く求められていたとしても、右に述べたような意味での本件懲戒事由を許容することにならない。
 〔中略〕
 被告清算事業団は、原告Xの姉が原告Xの逮捕の翌日に年休の申込みをしたことから、原告Xが逮捕を予見しながら集会に参加したと主張する。しかしながら、原告Xは、当日は「非休」であって勤務を要しない日であるから(この点は、当事者間に争いはない。)、逮捕されることを予見して事前に姉に年休の申込みを頼んでいたならば、「非休である」日にわざわざ年休の申込みを依頼することなどはありえず、かえって、姉による年休の申込みは原告Xの関知しないことであったことを推認させる(なお、〈証拠略〉中には原告Xが年休の申し込みについて依頼した旨を述べた部分が存在するが、この点については原告Xは、原告Xの逮捕を知った集会参加者が原告Xの意思を慮って、原告Xの姉に連絡して年休の申込みをさせたことは、原告Xの意思にかなうことであるから、年休の申し込みとして扱って欲しいと述べたことを、その様に記載されたにすぎないと供述するところ、これは前記の「非休」の日に年休の申込みを依頼することはありえないことであるから、原告Xの右供述は十分信用に値する。)。また、被告清算事業団は「右A派の集会を支援する中核派等の過激派集団は、この集会を「今年最大の決戦」と位置づけ、同年夏頃から「空港突入・占拠・解体」を目標にして、全国からの動員を呼びかけていた。したがって、右集会後に、これらの過激派は、成田空港を警備する警察官と衝突することを当然予想し、警備陣を突破して空港を占拠する計画を立て、集会後のデモに使うため、丸太、角材、鉄パイプ、火炎びん、投石用のコンクリート片等の凶器となるものを事前に準備していた。一方空港を警備する警察もこの様な過激派集団の動きに備えて多数の警察官を動員して防備態勢を備えていた。この様な状況のもとにおいて、過激派集団のデモに参加すれば、警察官との激しい衝突になることは、当然に予測できるところである」と主張するところ、この事実の証明がされても、原告X自身が凶器が準備されていることを認識していなければ警察官との衝突を予測できたとは考えられず、この原告Xの認識についての主張は何らされていない。したがって、原告Xが逮捕を予見していたと認めることはできない。
 8 以上の検討から、被告清算事業団が原告Xの本件懲戒事由に関して主張するところは、これを認めるに足る証拠がないことが明らかになった。すなわち、原告Xが「投石集団中にて」逮捕された者であるとは認められず、いわんや原告X自身が、逮捕事実を実際に犯したことや事前に逮捕されることを予見していたことをも認めることはできないのである。とすれば、国鉄がした懲戒処分の対象となる非違行為としては本件集会に参加して逮捕されたことのみが残ることになろうが、このことのみをもって懲戒処分をすることが許されないのは、前述したとおりである。したがって、本件懲戒処分は懲戒事由が存在しない場合に懲戒処分を発令したのであるから、原告Xの処分の量定にあたって国鉄が考慮したとされる原告Xの本件懲戒事由以前の非違行為についてはその存否を判断するまでもなく違法であり、無効であるといわなければならない。