ID番号 | : | 04751 |
事件名 | : | 労働契約上の地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 国鉄直方自動車営業所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 運賃料金割引券を職員間で譲渡したこと等を理由としてなされた懲戒免職処分につきその効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 日本国有鉄道法31条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 |
裁判年月日 | : | 1989年5月2日 |
裁判所名 | : | 福岡地直方支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和62年 (ワ) 43 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例540号68頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕 右改正により従来から多種多様にのぼっていた乗車証等が整理され、「職務乗車証」「職務遂行書」「乗車券(無賃)」「職員家族等運賃料金割引券」(割引券)等が従前に比し限定された範囲において存続することとなった。(四)しかして、右存続が認められたのは、乗車証制度を全廃することは経済的観点からみても職員・家族に重大な影響があり、廃止に対する労働組合・職員からの反発もあり、全廃ともなれば職員の働く意欲を減退させ、その結果業務の円滑な運営を損うことにもなりかねない等の事情を考慮した結果によるものであって、右存続が認められた乗車証制度は、その存続のためには制度の本旨に従った厳格な取り扱い、使用方法が要求され、不正行為に対しては厳格に対処することが前提条件とされていたものである。(五)しかしながら、国鉄は、右改正に際し通達等により職務乗車証制度の利用方の厳正について職員に伝達しているものの(右通達等が割引券をも含む趣旨であるとしても、右通達等は特に職務乗車証を主眼としているものとみることができる。)、右改正以降の乗車証制度の運用ないし実状は、職務乗車証については、交付を受けた当該職員の現実の職務とは直接関係なく交付され、その利用可能区間を私的に利用することは黙認されており、割引券については、交付業務担当職員から現実に交付を受けていない職員もおり、現実に交付を受けた職員にあっても、大半の職員はその全部を使用することがなく、職員間で譲り渡し、譲り受けがある程度行なわれており、そのことを承知していた管理者もいた。以上のことが認められる。 2 (証拠略)中の東京地方裁判所昭和五八年(ワ)第一三一二号事件(団体交渉応諾義務確認請求事件)の被告たる国鉄は、同事件において乗車証制度の性質につき、「過去において被告が発行していた乗車証には各種のものがあるが、その内容はいずれも一定の事由により公共性の強い国鉄の運賃を免除するというものであるから、これらの乗車証の発行は公共財産である企業体の経営を委ねられている被告がその事業運営上の必要等に応じて適切な判断の下に行う裁量に委ねられているものである。そして、こうして発行された乗車証を交付されたことによって職員が受ける利益は、ひとえに被告の業務運営についての裁量による事実上の利益にすぎないのである。」旨主張していることが認められる。 3 前掲(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、国鉄職員として二八年間勤務してきた者であり、本件免職処分により退職金は支給されないこととなり、また、これまで懲戒処分を受けたことは一度もなく、懲戒を行う程度に至らない訓告処分を一、二回受けたに過ぎないものであることが認められる。 4 右認定事実その他本件証拠に照らせば、国鉄は、昭和五七年における乗車証制度の改正後においても、大部分の職員が現実に使用する必要性の限度を超えて現実に使用することもない多数の割引券を交付し続け、職員間での譲り渡し、譲り受けが或る程度行われていたことは管理者においても了知していたものであるのに、右改正以降本件不正行為までの間に、右の実状に照らし割引券交付の見直しを検討することもなく、譲り渡し、譲り受けの防止について積極的な配慮もなされないままに経過し、また、割引券の交付は職員が受ける事実上の利益であるとすれば、その不正使用についても職務遂行上の不正行為と同一視し得ないものがあると言うことができ、加えて、原告は過去において如何なる懲戒処分も受けたことがなく、国鉄は本件の如き態様による不正行為につき(その枚数の多寡はともかく)、従前懲戒免職処分を選択したことはなかったのである。 そうすると、本件不正行為がその内容のみならず、原告に対する個別的な事情聴取の経緯からみて悪質であり、国鉄には民間私企業と異なる懲戒法理が妥当すること等本件にあらわれた諸事情を考慮しても、二八年間の長きにわたる労働の対価たる退職金を失うこととなる本件免職処分を選択したことは過酷であり、社会通念上も著しく妥当性を欠くものであるとみるのが相当である。してみれば、本件免職処分は懲戒権を濫用するものであって無効であるから、原告と被告との間には労働契約関係が存在し、原告は被告から賃金を受ける法的地位にある。 |