ID番号 | : | 04771 |
事件名 | : | 退職金請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 外務省職員事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 元外務省職員であった者が、外務属・海軍主計見習尉官であった期間、および戦犯としての拘禁期間を退職手当の算定基礎としての勤務年数に含めて計算した退職手当を請求した事例。 |
参照法条 | : | 国家公務員退職手当法附則8条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算 |
裁判年月日 | : | 1989年6月15日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和63年 (行コ) 64 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例546号37頁 |
審級関係 | : | 一審/04021/東京地/昭63. 9.29/昭和59年(行ウ)47号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕 控訴人は、終戦後間もなく、当時駐留していたオーシャン島において、残留島民全員を殺害(一〇〇数十人、ただし一人のみ生存)したことにかかわったとの理由で、戦争犯罪人として起訴され、連合国(豪州)の軍事裁判により有罪の判決を受け、以後拘禁されたことが認められるが、右処分の前提となったポツダム緊急勅令は、日本国憲法の規定にかかわりなく超憲法的効力があると解さざるを得ず、したがってそれに基づく諸政令、いわゆるポツダム命令も、超憲法的効力を有するものとして扱わざるを得ないから、右軍事裁判の結果に基づいて、国が控訴人の軍人としての身分を失わせたとしても、その効力が妨げられると解することはできず、その結果として以後の期間(一部)が、退職手当算定の基礎となる在職期間に算入されなかったとしても違法とはいえない。 また、控訴人は、国は控訴人らのように国家の戦争による犠牲となった者の権利回復を計るべきであり、主権が回復した以上、ポツダム命令により失われた身分等についても回復の措置がとられるべきであるなど主張する。しかしながら、本訴で問題とされている公務員の退職手当は、公務員として勤務したことに対し支払われるもので、公務に従事しなかった拘禁中の期間を退職手当算定の基礎となる期間に算入するかどうかと、戦争による犠牲者の権利を回復(公務員だけの問題ではない。)するための手段を講ずることとは、別の次元の問題といわざるを得ない。控訴人の主張するような意味での権利回復が相当であるとしても、恩給法のように立法がなされれば格別、退職手当法の解釈としては、控訴人の主張は採用できないというほかない。 さらに、控訴人は、軍人としての身分を喪失したとされる当時、日本国の統治が及ばない外地にいたから、右根拠法令の効力は及ばないとも主張する。しかし、日本国民である以上、外国にあっても法令の効力は原則として及ぶものと解されるし、まして、控訴人が拘禁されていたのは、連合国の一員である豪州の軍事裁判により、かつ当時その統治下にあったマヌス島であった(前記争いのない事実)ことに鑑みると、前記ポツダム命令の効力が控訴人に及ばないと解することはできない。 次に、控訴人は、軍人の予備役編入は、公務員としての身分を奪うことであり、通知を要すると主張する。(証拠略)によると、昭和二一年二月二八日の閣令・内務省令第一号は、前記ポツダム緊急勅令に基づく前記昭和二一年勅令第一〇九号施行にともなう政令として、『戦争犯罪人』に該当する旨の指定は本人に対する通知をもってなす旨規定していることが認められる。しかし、覚書該当者のうち控訴人のように軍事裁判で懲役二〇年に処せられたような立場の者は、右の要件に該当することは明白であり、そのことを争う余地もなく、そもそも右措置が超法規的な効力を有したポツダム緊急勅令下での扱いであったことを併せ考えると、軍事裁判の刑が確定したことにより、覚書該当者の指定の通知をすることなく、昭和二一年九月一七日付けの復員庁通牒(〈証拠略〉)により現役軍人から予備役編入とし(この予備役編入についても、控訴人に通知がされたことを認めるに足りる証拠はないが、海軍武官服役令によれば辞令によらず予備役編入も可能であり、それが右のように超法規的な効力を有したポツダム緊急勅令下の扱いであったことも併せ考えるとやむを得ない措置と考えられる。)、給与を支給せず、退職手当法上の軍人(公務員)としての身分を喪失させたとしても(なお、予備役に編入された者は召集されない以上給与も支給されないことは、右海軍給與令に照らして明らかであるから、予備役編入後の期間を、退職手当通算の基礎となる勤続期間に算入することもできない。)、右処分が当然無効でその効力が生じていないと解することもできないというべきである。 |