ID番号 | : | 04772 |
事件名 | : | 地位保全金員支払仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 大タク事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 勤務終了後における仮眠時間帯における同僚への暴力行為を理由に普通解雇されたタクシー運転手がその効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号 民法1条3項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 暴力・暴行・暴言 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1989年6月15日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成1年 (ヨ) 313 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労働判例544号58頁/労経速報1370号22頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇権の濫用〕 解雇は継続的な労働契約関係を終了させ労働者の生活の基盤を奪うという意味において労働者に重大な不利益を与えるものであることを考えると、使用者による解雇権の行使は慎重にされるべきであり、労働者の側に規律違反の行為など就業規則に定める解雇事由がある場合においても、当該非行の程度と比較して解雇処分を選択することが均衡を欠くと評価されるなど解雇が相当の理由を欠くときには、当該解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効になると解すべきである。 〔解雇-解雇事由-暴力・暴行〕 本件暴行は、飲酒の上での偶発的な非行であるうえ(被申請人は本件暴行が計画的であることは極めて明白であると主張するが、申請人は当初からAに対する暴行の故意を有していたものではなく、既に相当程度飲酒した後でAの発言を聞かされ、酔った勢いでAの下まで行こうと思い立ったものの、その時点においてもAに害を加えることまで意図していたわけではなく、その後Aの態度に接して初めて暴行の故意を生じたものであるから、右主張は到底採用できない。)、Aは本件暴行の一〇日後には平常通りのタクシー乗務に就いており、また徳島県に戻ってからは頚椎捻挫の病名でのみ加療を継続していることに徴すると、本件暴行によるAの主要な傷害は長くとも一〇日間で治癒するに至ったものと推認することができ、結果もさほど重大であるとはいえないこと(頚椎捻挫の点は、徳島県に戻って以後の診断書しか存しないことに照らしても、本件疎明資料によっては本件暴行との間の因果関係の有無及び範囲が不明であるというほかはなく、そうである以上、これを申請人に不利に解釈することはできないというべきである。)、本件暴行は、職場内であるとはいえ勤務時間外の職務遂行とは無関係の行為であって、直ちに職場秩序あるいは職場規律を害する性質のものではなく、従業員同士の私的な動機に基づくささいな紛争であって、被申請人の対外的信用を直接毀損する類いのものでもないこと、本件暴行後申請人は素直に事実を認め、Aに対し賠償義務を負担する意思のあることを表明しており、事件後のAに対する種々の働きかけも申請人個人の発意によるものとは認められず、また被申請人の事情聴取の際反抗的な態度を取ったことは、その場において退職を勧告されたという申請人の置かれた状況を考えるならばやむを得ないものとして了解可能であって、申請人において反省の態度が全く窺えないというのは被申請人の独断に過ぎるというべきであり、申請人の性格が矯正不可能なまでに反社会的、反規範的であるとは認められないこと、被申請人は本件暴行が十三事件の直後の出来事であることを強調するが、被申請人において十三事件の後特に暴力の排除につき会社の厳しい姿勢を全従業員にその趣旨が徹底するような形で示したことを認めるに足りる的確な疎明資料はなく、また、十三事件は任意退職した事例であって、申請人を解雇した本件被申請人の処分の合理性を支持する例として必ずしも適切ではないこと(なお、付言しておくに、十三事件では即日被申請人の対応が示されているのに対し、後に本社社屋内で発生した本件では処置を決するのに一週間を要しているが、かかる差異が何に起因するのか、両事件の情状の違いを被申請人がどのようにとらえていたのか等につき被申請人は何ら納得の行く説明をしておらず、不可解というほかない。)とりわけ、申請人には、被申請人に雇用されてから本件解雇までの五年余りの間、職務上の非違行為があったわけではなく、勤務成績や勤務態度が不良であったわけでもないうえ、本件暴行により現に被申請人の業務が阻害されたと認めるに足りる的確な疎明資料も何ら存しないこと、を肯認することができ、以上の諸事情を考慮すると、本件解雇は、申請人の非行の実質と比較していささか酷に過ぎ、合理的な理由を欠き、解雇権の濫用に該当して無効であるといわざるを得ない。 したがって、申請人は、被申請人に対しなお雇用契約上の地位を有しており、被申請人から就労を拒否されているとはいえ、解雇期間中の賃金請求権を有するというべきである。 |