ID番号 | : | 04779 |
事件名 | : | 地位保全/金員支払仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 大阪造船所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 雇用調整としての意味をもつ出向命令を拒否して普通解雇された者がその効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法20条 民法625条1項 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の限界 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務 |
裁判年月日 | : | 1989年6月27日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和62年 (ヨ) 1874 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | タイムズ711号215頁/労働判例545号15頁/労経速報1366号5頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 石嵜信憲・経営法曹103号45~53頁1993年10月/草野芳郎・平成元年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊735〕406~407頁1990年10月/道幸哲也・法学セミナー35巻2号121頁1990年2月/鈴木康隆、坂田宗彦、横山精一、杉本吉史・労働法律旬報1227号21~23頁1989年11月10日 |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の限界〕 〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕 1 本件解雇は申請人において本件出向命令を拒否したことが就業規則五三条一項四号の「その他やむを得ない事由のあるとき」に該当するとしてなされたものである。本件出向は右一において認められるとおり、余剰人員の整理、即ち雇用調整のための出向であって、被申請人が主張するとおり、整理解雇を回避するためのものと一応認められるが、かかる出向命令を拒否した場合の解雇の効力を判断する場合には、通常の出向命令を拒否した場合とは異なった事情を考慮する必要がある。使用者の業務上の必要性がもっぱら人員整理の必要から労働者を排除することにあり、客観的にみて労働者においてこれに応じることが殆ど考えられず、これに応じなければ任意退職せざるを得ないという内容の出向命令(内示)は、形式的には出向命令(内示)ではあるが、実質的にみれば整理解雇をするにあたり、解雇を回避するための措置としてなされた退職勧奨と出向命令(内示)の二つの側面をもったものであり、とりわけ、退職勧奨の性格が強いものとみるのが相当である。そうであるとすれば、このような性格をもった出向命令を拒否したことは、要するに整理解雇をするにあたってなされた退職勧奨に応じなかったものと捉えることが事案の本質に合致しており、かかる出向命令の拒否を理由とする解雇の効力を判断する場合には、通常の出向命令を拒否したことを理由とする解雇の効力を判断する場合になされる出向命令拒否を業務命令違反とみて、出向命令の業務上の必要性と出向者の労働条件上および生活上の不利益とを比較衡量して当該出向命令が権利濫用になるかどうかの検討をするという方法よりも、整理解雇の法理に照らして、解雇の有効性を検討することが事案の本質に沿った適切な判断方法であると解するのが相当である。 なお、右のように出向に応じることが殆ど考えられず、しかも出向を拒否した場合には退職せざるを得ないような二者択一の出向命令(内示)については、出向命令(内示)を退職勧奨と捉えるのではなく、端的に出向命令(内示)自体を整理解雇と捉えるべきであるとする考え方もあり得よう。しかし、事実上退職せざるを得ないとはいうものの、法的にはあくまでも任意退職であり、任意に退職した者についてもこれを整理解雇されたものということはできない。したがって、出向命令(内示)自体を整理解雇ということはできず、あくまで退職勧奨にとどまるというべきである。 ところで、整理解雇が労働者にとって企業から放逐されるにつき何ら責められるべき事情がないにもかかわらず、使用者側の経営の苦境克服という一方的事情により生活の糧を得る唯一の手段ともいうべき従業員としての地位を失わせるものであることに鑑みれば、整理解雇が有効とされるためには、第一に企業が厳しい経営危機に陥っていて人員整理の必要性があること、第二に解雇を回避するために相当な措置を講ずる努力をしたこと、第三に右解雇回避措置を講じたにもかかわらず、なお、人員整理の必要上解雇をする必要性があること、第四に被解雇者の選定基準が客観的かつ合理的なものであって、その具体的な適用も公平であること、第五に解雇に至る過程において労働者または労働組合と十分な協議を尽くしたことの各要件を充足することを要し、右要件を欠く場合には、かかる整理解雇は解雇権の濫用として無効と解すべきである。〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕 3 以上検討してきたところによれば、本件解雇は整理解雇であるというべきところ、解雇を回避する相当な措置がとられたとはいいがたく、そもそも解雇の必要性が認められず、被解雇者の選定基準も設定されておらず、解雇に至る過程においても十分な協議がされたとはいいがたいのであるから、本件解雇は無効であるといわなければならない。 |