全 情 報

ID番号 04791
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 国鉄広島貨車区事件
争点
事案概要  乗務のため待ち合わせ時間中、管理者に無断で外出し、飲酒泥酔したうえで民家の屋根に登り、カワラ約三〇枚をはがして投げつける等して警察に保護連行され、その結果乗務を欠いた国鉄の貨車乗務員の懲戒免職処分の効力が争われた事例。
参照法条 日本国有鉄道法31条1項
労働基準法2章
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働義務の内容
裁判年月日 1989年7月18日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (ワ) 315 
裁判結果 棄却
出典 労働判例543号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働義務の内容〕
 原告は、待ち合わせ時間は、勤務時間ではなく、単なる私的な時間であるから、使用者が服務に関する定めをしても、労働者を拘束することはできず、したがって、原告が行先を明らかにしないで外出しても、無断で外出したことにはならないと主張する。しかし、待ち合わせ時間は、前記のように乗務員が勤務の中間において乗務のため列車を待ち合わせる場合の時間帯であるから、勤務時間とはいえないとしても、乗務員に対する緊急連絡等の必要上、待ち合わせ時間中に指定の宿泊所から外出する場合に行先を明らかにすべき程度のことを定めることは許されるものと解するのが相当であり、外出する場合に行先を明らかにすべきことを定めた前記列車掛執務標準の規定は、有効であり、国鉄職員を拘束するものというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 本件懲戒免職事由のうち、原告が自区泊中に指定の宿泊所から外出する際、当直助役に行先を明らかにしないで、外出し、飲酒泥酔の結果、乗務予定の列車の乗務を欠いたという所為は、国鉄法三一条一項一号及びそれに基づく国鉄就業規則六六条一号(国鉄に関する法規、令達に違反したとき)、一五号(職務上の規律をみだす行いのあったとき)に該当し、原告の器物損壊の所為は、同条一六号(職員としての品位を傷つけ又は信用を失うべき非行のあったとき)、一七号(その他著しく不都合な行いのあったとき)に該当するものというべきである。
 原告は、器物損壊の所為は、私的時間である待ち合わせ時間中の所為であり、懲戒事由に該当しないと主張するが、原告の所為は、勤務時間以外の待ち合わせ時間中とはいえ、深夜、泥酔の上、故意に他人の自動車を破損したり、屋根瓦約三〇枚をはがして投げ捨て、隣家の窓ガラスを破損したというものであって、刑事事件としては立件されなかったものの、著しく不都合な行いと評価しうるものと認められ、それが国鉄の職員として相応しくないもので、国鉄の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認めることができるから、原告の右所為は、就業規則の右各号に該当するものというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 国鉄法三一条一項は、職員が懲戒事由に該当する場合に、懲戒権者である国鉄総裁が、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる旨規定しているが、懲戒権者は、どの処分を選択するかを決定するに当たっては、懲戒事由に該当すると認められる行為の外部に表れた態様のほか、右行為の原因、動機、状況、結果等を考慮すべきことはもちろん、更に当該職員のその前後における態度、処分歴、社会的環境、選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等諸般の事情を総合考慮した上で、国鉄の企業秩序の維持確保という見地から考えて相当と判断した処分を選択すべきものである。その判断は、右のように相当広い範囲の事情を総合した上でなされるものであるから、これについては、懲戒権者の裁量が認められているものと解するのが相当である。したがって、懲戒権者の処分選択が、当該行為との対比において甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものとして違法性を有しないかぎり、それは、懲戒権者の裁量の範囲内にあるものとしてその効力を否定することはできないものというべきである。この理は、懲戒権者が懲戒免職処分を選択した判断についても妥当するのであって、免職処分が職員たる地位を失わしめるという他の処分とは異なった重大な結果を招来するものであることを考慮し、免職処分の当否については、他の処分の選択の場合に比較して特に慎重な配慮を要することを勘案した上で、右判断が裁量の範囲を超えているかどうかを検討してその効力を判断すべきものである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 原告は、それにもかかわらず、自区泊中に泥酔した上、他人の乗用車を破損したり、民家の屋根に登って多数の瓦を投げ捨て、隣家の窓ガラスを破損するなどの傍若無人の振る舞いに及んだ末、警察官に取り押さえられて保護され、乗務予定の列車に欠乗し、新聞紙上においても相当大きく報道されるに至ったものである。このような事情を総合して考えると、原告の欠乗にもかかわらず、代務者の手配により列車遅延に至らなかったことなど原告に有利な事情を斟酌し、更に、免職処分の選択に当たっては、特に慎重な配慮を要することを斟案しても、なお、国鉄が原告に対し本件所為につき免職処分を選択した判断が合理性を欠くものと断ずるに足りず、本件懲戒免職処分をもって裁量の範囲を超えた違法なものということはできない。