ID番号 | : | 04794 |
事件名 | : | 地位保全及び賃金仮払仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 鈴蘭交通事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | タクシー運転手の年休の時季指定に対する使用者の時季変更権行使に対しての労働者の言動が穏当を欠くものであったとしてなされた普通解雇の効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害 |
裁判年月日 | : | 1989年7月24日 |
裁判所名 | : | 札幌地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和63年 (ヨ) 839 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労働判例548号83頁/労経速報1395号19頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕 前記認定事実によれば、債権者は過去に四回の懲戒歴を有するところ、債権者の右両日の前記各言動は、債務者の業務上の指示と対立し、反抗的な態度を示す面が認められ、この点に着目すれば、債務者が掲げる前記解雇事由、債務者の就業規則七三条一三号所定の「職務上の指示命令に不当に反抗して事業上の秩序を紊したとき」又は同三〇条八号所定の「会社の業務運営を妨げ又は著しく協力しないとき及び誠実の精神が認められないとき」との解雇事由に形式的には該当するものといえないではない。 しかしながら、債権者の前記各言動は、債権者の有給休暇の時季指定に対する債務者の時季変更権の行使に端を発し、時季変更の適否をめぐる紛議の過程で行われたものであるから、債権者の右各言動が解雇事由に該当するか否かを判断するに当たっては、債務者の右時季変更権の行使の適否が重要な判断要素となることを免れない。 そこで、この点について検討するに、時季変更権の行使は、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合に限り認められるものであり(労働基準法三九条四項)、「事業の正常な運営を妨げる」か否かは、企業の規模、有給休暇請求者の職場における配置、その担当する職務の内容、性質、繁閑、代行者の配置の難易、時季を同じくして有給休暇を請求する者の人数等を総合して判断すべきものと解されるところ、債権者の従事するタクシー運転業務は一般に容易に代替性の認められる職種であって、代行者の確保にはさほど困難を来すものではないと考えられ、また、債権者と同じ時季に有給休暇を指定した者は債権者を含めて五名に過ぎないことに照しても、多数のタクシー運転手を擁する債務者において当該日に勤務予定でない運転手等の中から代行者を確保することが困難であったとは考えられないのであって、業務の繁忙性あるいはその他の理由によって事業の運営が妨げられるものであったことにつき十分な疎明があったものとは認め難い。 以上に鑑みると、債務者の債権者に対する時季変更権の行使は無効であったというべきであり、したがって、債権者の前記各言動は、債務者の右のとおり無効な業務上の指示に対抗する意図に基づいてなされたものであるから、この点を考慮すると、債権者の前記言動は、その態様において激高の余り粗野な点がないとはいえないとしても、これをもって前記各解雇事由に該当するものとは認めることができない。また、普通解雇の事由が就業規則所定のそれには限定されないものと解すべきものとしても、前記各言動を理由として債権者を解雇することは、解雇権の濫用であって、その効力を生じる余地はないものというべきである。 |