全 情 報

ID番号 04819
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 宮城県事件
争点
事案概要  地方公務員による退職願の撤回が有効とされ、依願解職処分が取消された後、右依願退職処分が不法行為にあたるとして損害賠償が請求された場合につき、右処分に過失があったとはいえないとして請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
国家賠償法1条
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回
裁判年月日 1961年1月17日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ワ) 264 
裁判結果 棄却
出典 裁判所時報323号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-退職願-退職願いの撤回〕
 次に原告は昭和二九年三月三一日付で耕野村教育委員会が原告を依願解職処分に付したのは、同教育委員会教育長Y1、宮城県教育委員会A出張所長Y2、同出張所教育課長Y3の三名共同の不法行為である、と主張するので、まずこの点について検討する。
 原告が耕野村教育委員会より解職処分をうける前に有効に退職願を撤回したこと、従つて前記解職処分は違法な処分であることは前認定のとおりである。
 ところで違法な行政処分がなされたということから、直ちにその行政処分に関与した公務員に故意又は過失があつたと推断することはできない。
 なんとなれば行政法規の解釈は必らずしも容易なことではなく、公務員の職務の執行に際し職務上要求される通常の法律知識に従い解釈上正当と判断してなした処分が裁判所の終局的判断により、結局違法と判定されることは往々ありうることであり、このような場合に当該公務員に過失(違法であることを当然知り得べくして不注意で知らなかつた)の責を負わすことはできないからである。
 いま本件についてみるに、退職願の撤回がいつまで許されるかは極めて困難な問題で、このことは前記最高裁判所の判決を俟つまでもないことである。
 それ故本件解職処分に関与した公務員が、撤回は許されないとの見解のもとに原告の退職願の撤回を無視して原告を解職処分に付したからといつてそのことだけでこれら公務員に過失があつたとはいうことができないのみならず、原告本人尋問の結果によると右解職処分に関与したY1、Y2らが結果としては違法な解職処分に関与したことが認められるけれどもこの程度では、これらの者について故意又は過失があつたこと、すなわち解職処分に付することが違法であることを知り、又は知り得べくして不注意でこれを知らなかつたと認めるに足りないし、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。
 そうとすれば、右Y2らの不法行為を理由とする原告の本訴請求はその余の判断を俟つまでもなく理由がないこととなる。