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ID番号 04820
事件名 不当労働行為救済命令取消請求控訴事件
いわゆる事件名 駐留軍事件
争点
事案概要  不当労働行為事件における労働委員会の救済命令の裁量権の範囲に関連して、無効な解雇を理由に就労を拒否されている労働者が、就労拒否により得た時間を利用して得た収入が、民法五三六条二項但書にいう債務を免れたことによって得た利益に該当するとした事例。
参照法条 民法536条2項
労働基準法24条
労働組合法7条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
裁判年月日 1961年1月30日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ネ) 428 
裁判結果 仮処分認容
出典 高裁民集14巻2号113頁/労働民例集12巻1号37頁/時報258号30頁/東高民時報12巻1号12頁/法曹新聞160号4頁/訟務月報7巻2号521頁
審級関係
評釈論文 古西信夫・労働経済旬報478号19頁/千種達夫・労働経済判例速報395号21頁/浅井清信・労働判例百選〔ジュリスト252号の2〕182頁/島田信義・早稲田法学37巻1・2合併号93頁
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 なお、右の場合、もし労働者が実体法上使用者に対し、他に就職して得た賃金を控除しないで従前のうべかりし給与全額の支払を受ける権利を有するものとすれば、仮にこれによつて事実上原状より有利な状態になるにしても、他の職場で得た賃金を控除しない従前の給与全額の遡及支払を命ずる救済命令を発することも違法でないという見方ができるかもしれない。しかし、これを実体法の見地から検討しても、本件のような不当解雇の場合は使用者の責に帰すべき事由による労働者の債務の履行不能の場合に該当するものというべきところ、労務の給付を免れた労働者が解雇から復職までの間他に就職して得た収入が民法第五百三十六条第二項にいわゆる「債務を免れたるに因りて得たる利益」にあたるか否かについては争のあるところであるが、ここにいわゆる「債務を免れたるに因りて得たる利益」を単に債務の免脱自体のみを原因として生じた利益と解するのは狭きに失するものというべく、債務者が債務の免脱のほか、これによつて得た時間を利用し、さらに他で働くという別の原因も加わつて得た賃金も、債務の免脱がなかつたならば得られなかつたものであるから、債務を免れた者が通常得られる程度のものであれば、債務を免れたことと相当因果関係にあり、従つてこれをもつて「債務を免れたるに因りて得たる利益」と解するのが相当である。しかるところ、本件救済命令申立人が他に就職して得た前記給与は、同人らの経歴等に徴すれば通常得られる程度のものと認められるから、右給与は「債務を免れたるに因りて得たる利益」に該当するものというべく、同人らは債権者たる控訴人に対して右給与額を償還すべき義務があり、従つて、控訴人が右償還請求権を主張する限り(控訴人が本件においてその主張をしていることはいうまでもない。)右申立人らは右償還額を控除した残額のうべかりし給与を請求しうるにすぎないものといわなければならない。