全 情 報

ID番号 04823
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 西日本鉄道事件
争点
事案概要  電車運転士に対する所持品検査拒否を理由とする懲戒解雇につき、所持品検査に応じるべき義務はあるが、その拒否をしたことは懲戒解雇事由にあたらないとして、右解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 所持品検査
裁判年月日 1961年2月15日
裁判所名 福岡地
裁判形式 決定
事件番号 昭和35年 (ヨ) 360 
裁判結果 認容
出典 労働民例集12巻1号63頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-所持品検査〕
 二、次に前記認定の脱靴検査拒否の行為が就業規則第五八条三号に規定する「職務上の指示に不当に反抗し、又は越権専断の行為をなし職場の秩序を紊したとき」に該当するかどうかについて判断する。
 本件就業規則の第二章服務規律の条項に照すと、右脱靴検査拒否の行為が就業規則第八条に違反することは明らかであるが、この条項違反に対応する制裁規定として第五八条三号が定められたものかどうかをまず、就業規則中の服務規律の規定と第五七条一乃至一四号、第五八条一乃至一三号に規定する懲戒事由との関聯において考えてみよう。服務規律の各条項は大別すると、(1)労働者の就労義務の正常な履行を確保するための規律(2)経営に属する財産を確保するための規律(3)政治活動の制限に関する規律に分類することができ、各懲戒事由はそれぞれこれらの服務規律違背に対応する制裁として位置づけることができる。第五八条三号はその規定の文言、趣旨からみると(1)の就労義務の正常な履行を確保するための服務規律のうち、特に重要な「職務を行うに当り上長の職務上の指示に従い、職責を重んずべき義務」(第四条)すなわち職務秩序に対する違背を特に重要な義務違反として懲戒事由としたものと解せられる。このことは第八条の所持品検査に応ずべき義務は第六条六乃至一〇号等と同様前記(2)の経営に属する財産を確保するための服務規律に属すること、特に第五七条四号、一四号後段、第五八条一〇号の規定の存することによつても明らかである。従つて、第五八条三号は第八条違反に対する制裁として規定されているものではないと考えざるを得ない。
 以上のとおり本件就業規則第五八条三号の懲戒事由の趣旨並びに第八条の服務規律の性質を理解するときは、所持品検査の指示を以つて直ちに第五八条三号にいう「職務上の指示」に該当するものとなすことを得ない。
 しかもたとえかりに一歩譲つて所持品検査の指示が「職務上の指示」に該当するとしても、かかる検査を拒否することが、「越権専断の行為」に該当しないことは明らかであるし、「不当に反抗して職場の秩序を紊し」且つその情状が懲戒解雇に値するものかについてもにわかに断じ難い。
 要するに、本件懲戒解雇は就業規則の適用を誤つたもので無効であるといわなければならない。