全 情 報

ID番号 04831
事件名 解雇有効確認請求事件/賃金請求反訴事件
いわゆる事件名 小薬印刷所事件
争点
事案概要  教職員に対する勤務評定に反対する文撰工が勤務評定に関する出版物の文撰を拒否あるいは意図的にまちがった文章をさしはさんだことを理由とする懲戒解雇が有効とされ、会社による雇用関係不存在の訴えが認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 処分無効確認の訴え等
裁判年月日 1961年4月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ワ) 8558 
昭和33年 (ワ) 10421 
裁判結果 本訴認容,反訴棄却
出典 労働民例集12巻2号221頁/時報264号27頁
審級関係
評釈論文 下森定・労働経済旬報484号23頁/峯村光郎・季刊労働法41号46頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
〔懲戒・懲戒解雇-処分無効確認の訴え等〕
 してみると被告Y1は、A職長から命ぜられたその本来の職務に属する仕事に従事することを意識的に拒絶したものであつて、そのことにより企業経営の秩序を紊したものというべきは当然である。被告Y1教職員に関する勤務評定制度に不賛成の立場から右のような作業拒否の挙に出たことは、原告に雇用されるものとしての同被告の当該行為を正当づけるには足りないのである。
 被告Y1は、A職長よりの作業命令を拒否したことを争い、当該作業を他の文撰工に担当させてもらえないかと申入れたところ、同職長もこれを了承したので、右作業命令は結局少くとも黙示的に撤回された旨主張し、被告Y1、同Y2各本人尋問の結果(後者はその第二回)および証人Bの証言中に右主張に副うような趣旨の供述があるけれども措信するに足りず、証人Aおよび同Cの各証言によると、A職長と被告Y2との話合いの結果被告Y1の拒否した仕事は、被告Y2とY3の両名で手別けして仕上げるということになつたので、A職長としては被告Y1に対しそれ以上督促をしたり注意を与えたりするようなことはしなかつたけれども、被告Y1の作業拒否を不問に付するとか黙認するとかいうような挙措に出たことは絶対になく、かえつて問題を重大視して直ちに上司にその旨の報告をしたことが認められるので、被告Y1の前記主張は失当である。さらに被告Y1は、文撰の仕事に関する文撰工の職場の一体性ということを揚言して、被告Y1が分担を命ぜられた仕事が被告Y2とY3の両名によつて滞りなく遂行され、原告が東京都教育庁より受注した印刷物の期間内納入に支障を生じなかつた以上、被告Y1において就業規則違反を理由に原告から懲戒解雇されるべき筋合いはないと主張する。しかしながら原告が被告Y1を懲戒解雇すべきものとした理由は、まさしく同被告がA職長の作業命令を拒否したこと自体に求められたものであることは、原告の主張からして疑いのないところであり(被告Y1の右行為によつて原告の東京都教育庁に対する受注印刷物の納入が期日に間に合わなかつたということを、原告が主張しているのは、単に情状として述べているに止まるものであることが明かである。)、もし当該行為が原告の就業規則所定の懲戒解雇の事由に該当するものである以上は、単に被告Y1の主張するような文撰職場の一体性というような根拠だけから、原告の被告Y1に対する懲戒に関する責任の追及を阻止するには足りないものといわなければならない。被告Y1の右主張は、精々原告の被告Y1に対する懲戒解雇が苛酷に失し、その意思表示が権利の濫用として無効であると解すべきかどうかという後段で論及する争点の関係において斟酌されれば足りるものというべきである。
 以上判示したところからすれば被告Y1が文撰職長Aの作業命令を拒否し、命令にかかる文撰の仕事をしなかつたのは、少くとも、原告の就業規則第三四条第六号所定の懲戒事由すなわち「(其の他)不都合な行為のあつたとき」に該当するものと解せられる(叙上のような行動のあつたことから直ちに被告Y1を右就業規則第三四条第四号にいわゆる「素行不良で会社の秩序を紊した者」にあたるものとは認めがたい。)。