全 情 報

ID番号 04834
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 国際電信電話事件
争点
事案概要  勤務時間中に自己の労働条件について上司に対し不満を訴え、約四〇分間にわたって交渉したことにつき、懲戒解雇事由には該当しないとされた事例。
 違法な争議行為を、企画・指導した職場委員に対する懲戒解雇が相当とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働関係調整法37条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職場離脱
裁判年月日 1961年5月19日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ヨ) 1105 
裁判結果 一部認容,一部却下
出典 労働民例集12巻3号282頁
審級関係
評釈論文 平岡一実・ジュリスト275号105頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職場離脱〕
 (6) 叙上、被申請人主張の懲戒事由の検討により明らかな如く、同申請人に懲戒事由に該当する行為があつたものと認められないから、本件懲戒解雇は爾余の判断をまつまでもなく無効であり、同申請人は、依然として会社従業員たる地位を保有するものといわなければならない。そして、弁論の全趣旨によれば、被申請人は昭和三〇年四月一二日以降本件解雇を理由に申請人の就労を拒否していることが窺われ、また右就労拒否は叙上のとおり理由がなく、会社の責に帰すべき事由によるものと認められるから、申請人は、被申請人に対しなお雇用契約上の賃金請求権を失わないものといわなければならない。右賃金額は、労基法所定の平均賃金により算定するを相当とし、申請人の解雇当時の一カ月の平均賃金が金一二、三〇〇円であることは被申請人の認めるところであるが、これを超過する申請人主張の金額については疏明がないから、被申請人の認める右賃金額によらざるをえない。そして右賃金の支払期が毎月二五日であることは、被申請人の明らかに争わないところであるから、同申請人は被申請人に対し、本件解雇の翌日である昭和三〇年四月一二日以降毎月二五日限り、前記平均賃金の割合による賃金額を請求しうるものといわなければならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 いまこの観点に立つて、申請人Xに対する懲戒解雇処分が相当であるかどうかについて考察するに、前認定の如く、申請人Xの懲戒事由たる職場放棄、業務命令違反、会社回線不当使用の事実は、単に偶発的に同人のみがなした単独行為ではなく、集団的な職場放棄の一環としてなされたものであり、しかも、同申請人が画策者、指導者であること、かつ右職場放棄は約五〇分にわたり、そのため送信一二一通は、平常時に比し平均一通につき約三六分づつの遅延を来した外、同申請人の電報停止の回線連絡により神戸国際電報局等の他局の通信業務にも支障を生ぜしめていること、電気通信事業は送受信の迅速確実を生命とし、一分時でも所要時分の短縮をめざし努力さるべき性質のものであることはいうまでもなく、かつ公衆通信事業本来の使命から高度の公益性を有し、公衆電気通信法第一一〇条が正当の理由なく通信の取扱いをしなかつた場合の処罰規定を設け、労調法第八条、第三七条が前記の如く抜打争議を禁止している所以もこゝにあることは勿論であり、とくに会社の取扱う国際通信は外国貿易その他国の政治経済に直接関連するだけに、その停廃による影響の重大であることは言をまたないところであり、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第五六号証の一ないし四、同第五七号証の一、二、同第五八号証の一ないし三、同第五九号証の一二、その他弁論の全趣旨によつて窺われる如く、会社は、組合より争議予告通知を受けるや、組合との間に保安協定を結び、争議行為の規模、態様の事前通告、業務停止に伴う管理者への引継ぎを確実ならしめるとともに、保安要員の差出しを受ける等、利用者の損害回避のため万全の策を講じ、とくに重要通信(人命保全電報、医事通報、気象電報等)は争議行為中といえども、その疎通を中絶せしめないよう慎重な配慮を用いているのであるが、本件の如き違法争議においては、右の如き対策を講ずる余地がなく、公益事業を営む会社として、社会的負托に背くことに対する苦痛は甚大なるものがあると推察される等、諸般の事情を考慮し、かつ前記乙第三五号証の六の同申請人関係部分によつて明らかな如く、同申請人はその後昭和三〇年三月二九日に行われた稲井大阪電報局長の調査にあたり、拒否的な黙秘的な態度に出るのならいざ知らず、同局長の終始真面目な質問に対し頗る不真面目な応答を繰返しており、その反省、改悛の望みをかけられない情況にあつたことを勘案するとき、その年令からみて思慮の熟さない、過激な行動に走りやすい若年時代(年令の点は申請人X本人の供述から窺われる)の越軌行為であり、かつ、被申請人自認の如く、利用者から実害の苦情がなかつた点を考慮に入れても、会社が経営秩序維持のため、同申請人の排除と他の従業員に対する他戒の趣旨から、同申請人に対し懲戒解雇処分に出たことを以て、妥当性を欠いた過酷な処分であるとはいい難い。従つて、就業規則の適用を誤つたものとする申請人の主張は理由がない。