ID番号 | : | 04839 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 逗子開成学園事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 懲戒処分の根拠規定が存在しない場合につき、使用者に固有の懲戒権は認められないとした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠 |
裁判年月日 | : | 1961年7月22日 |
裁判所名 | : | 横浜地横須賀支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和36年 (ヨ) 16 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働民例集12巻4号713頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 舎川昭三・労働法律旬報432号15頁/瀬元美知男・ジュリスト333号100頁/飯倉一郎・労働経済旬報521号27頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕 懲戒処分は企業秩序の違反者に対する制裁としてなされ、その機能が当該企業の秩序維持及び他戒にあることは多言を要しないが、とりわけ右の組織体の秩序維持という機能及び必要性から組織体固有の法的権利としての懲戒権を認めることは論理上不可能であり、所有権乃至経営権のもつ支配的機能をもつてしても、これが人に対する一般的支配権として労働契約に関する事項にまで当然に及ぶと解することはできない。また、企業を制度として或いは経営協同体理論によつて企業乃至経営に固有の懲戒権ありと考えることは、当裁判所の左袒しがたいところである。かように考えることは、権利の淵源を全体社会の法と契約とにのみ求める近代的資本主義社会における法原則に悖ることになり、また企業乃至経営における人的結合関係は労使の対抗関係のうえに形成されているものであつて、家族的協同体の如きものとは対比しうべくもないからである。 懲戒処分の本質は、従属労働関係における使用者の労働者に対する事実上の支配力に依拠し、生産過程における違反事由に基いて、法的には自由、平等な当事者間の契約関係に立つている労働者に対して流通過程において課せられる一定の不利益処分にほかならず、従つて懲戒処分は、損害賠償及び契約解除の如き違約罰とは質的に異る秩序罰(退職金の剥奪等労働者に対して特別の不利益を与える。)たる性格を有するものである。このように考えると、いわゆる二重構造性を具有する労働契約が、本質上一種の身分的契約乃至人法的関係としての側面をもつことから、労働者が経営に編入されることによつて使用者の指揮命令に服するという抽象的合意のうちに、懲戒処分に服することの合意までが当然に含まれていると解することも困難である、また懲戒権の根拠を使用者の有する解雇権から説明することもできないのである。 当裁判所は、以上のような見地から、理論上当然に使用者に固有の法的権利としての懲戒権を認めることはできないと考える。そして、懲戒処分が企業秩序維持の目的をもつて行われる秩序罰たる性格をもつ以上、懲戒権行使のための懲戒事由とされているものは、法律上はやはり信義則違反乃至債務不履行と同質の違約罰的事由であるから、その事由を秩序罰の事由として秩序罰類型と結びつけるためには少くとも労使関係に適用ある規範中に明示されることが必要であり、懲戒処分はこれに基いて行われなければならないと解すべきである。 しかるに本件各懲戒解雇が準拠すべき明示の規範なくして行われたこと、さきに説明したとおりであるから、本件各懲戒解雇はすべて無効と解するのが相当である。 |