ID番号 | : | 04843 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 作佐部工業所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 上司に対する暴行・傷害を理由とする懲戒解雇が有効とされた事例。 右懲戒解雇につき、解雇協議約款における協議が尽くされたものとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 労働組合法16条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 |
裁判年月日 | : | 1961年11月14日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和34年 (ヨ) 2158 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集12巻6号979頁/時報287号24頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 下森定・労働経済旬報499号26頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕 (一) 被申請人と申請人の加入する組合との間に昭和三二年二月二六日締結された協定に、被申請人が組合員たる従業員を解雇するについては組合と協議する旨の条項があることは、当事者間に争いがない。そこで被申請人が申請人に対する懲戒解雇の意思表示をするにつき右協定に定められた協議の手続を経たかどうかを調べてみるに、証人A及び同Bの各証言(但し後者の証言中左記採用しない部分を除く。)によると、被申請人が申請人に対する懲戒解雇の理由として取り上げた申請人のCに対する殴打事件(その詳細については後に説明する。)が昭和三四年二月二四日に発生するや、被申請人の工場長で、社長を補佐し生産関係の業務に関する指揮監督及び人事その他庶務一般を担当するAにおいて、即日及びその二、三日後の両度にわたり組合の委員長B対し、被申請人としては右事件をひき起した申請人について然るべき措置をとらなければならないものと考えているとして組合の意見を質したけれども、組合として意見をのべる限りでないとの返答であつたこと、続いて同月二八日被申請人より申請人に対する懲戒解雇の意思表示をするに先立つてA工場長がB委員長その他組合の執行委員全員を集めて申請人に対して科そうとする懲戒の内容を発表の上、これに対する組合の意見を求めたが、組合側の出席者は終始沈黙を守つて全然発言をしなかつたことが認められる。右認定に反する証人Bの証言は採用できない。右のような経過にかえりみれば、被申請人は、申請人に対し懲戒解雇の意思表示をするについて、前記協定に基く協議を遂げるため組合に対しとるべき処置を尽したのにかかわらず、組合において意見の表明を最後まで拒否したため、所期の目的を達するに至らなかつたものというべく、このような場合においては、前記協定に基く被申請人の組合との協議義務は、申請人に対する懲戒解雇に関して完全に果されたものと解すべきである。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕 叙上認定したところによると、被申請人が申請人を就業規則第六四条第三号所定の事由に基いて懲戒解雇すべきものとしてその意思表示をしたのは、まことに相当の処置であるというべく、殊に申請人の主張するごとく情状の酌量に欠けるかどはなかつたものと解するのが相当である。なお、申請人は、C課長に対する暴行傷害についてその日のうちに同課長と話し合つて円満に解決することに示談が成立したのであるから、その事実が申請人にとつて特に有利な情状として顧慮されるべきであり、そのことを考え合わせると、被申請人が申請人に対する懲戒のため解雇の方法を選んだのは重きに失する旨主張する。申請人本人尋問の結果によると、右暴行傷害事件の発生した日の夜申請人宅において、申請人からC課長に対して当日の行為につき遺憾の意を表したところ、同課長もこれを諒としたことが認められる(この認定に牴触する証人Cの証言は採用しない。)けれども、証人Cの証言によると、当夜はC課長の方から申請人宅に同人を訪問したのであつて、その目的は、前記のような暴行傷害の加害者であるとはいえ、平素とかく粗暴な言動の多い申請人であるだけに、これをなだめて置いた方が無難であるとの配慮に出たものであり、しかも前述のとおり当夜C課長の来訪を受けるまでの間に、申請人から進んで同課長に謝罪をしたようなことは絶えてなかつたことが認められるし、先に認定したような、即ちこの判決の事実摘示欄第三の二の(二)中(6)及び(7)にのべられているような、事後における申請人の不穏当な言動にも照らすときは、申請人がC課長に対する自らの行為に関し本心から反省悔悟したものとみることには多大の疑念なしとしないのみならず、申請人とC課長との両者の間で示談がなされたということ自体は、被申請人が申請人の当該行為に対して企業経営の秩序維持という観点から懲戒権を発動するに値するかどうかの評価を下すについて申請人の主張するほどに決定的な重みを置かなければならないものということができないことも明らかであると共に、上述のような申請人とC課長との間で話合いがまとまつたいきさつをどのように勘案しようとも、被申請人が申請人に対し前示行為を理由とする懲戒のため解雇の方法をとつたことをもつて苛酷にすぎたものと断じ得ないことは、多言の必要をみないところである。 |