全 情 報

ID番号 04883
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 広島電鉄事件
争点
事案概要  組合員の一部の者が争議解決後に寄宿舎附属食堂を不当に占拠する等職場の秩序を乱したとして懲戒解雇されたことにつき組合が右解雇の無効確認を求めた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法5条1項
労働組合法6条
民事訴訟法(平成8年改正前)45条
体系項目 解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1950年5月11日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和25年 (ヨ) 19 
裁判結果 認容
出典 労働民例集1巻追号1244頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇と争訟〕
 所属組合員が使用者から懲戒解雇の処分に付された場合、これが無効なる旨主張し、地位の保全を訴求するにつき、労働組合が被解雇者とは独立に当事者としての適格を有するものと解する。それは一般に労働組合の本質的目的から、そうなるのであるけれど、被解雇者本人の意に反してまで訴訟追行できるわけのものではない。
 本件申請をするについて、申請人組合員の総意に反するものとの疏明はないので、一応組合代表者において組合の名において本件申請をすることは適法といえる。〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 被申請人会社が被解雇者等の右行為は「事業に対する協力心を欠き業務上についての上長の指示に従わずその他職場の秩序を紊したとき」(就業規則第百十二条第九号)「その他職務上の義務又は法令若しくは会社の諸規則に違反し懲戒を必要とするとき」(同条第十二号)に該当するとし「その情が重い」(第百十三条第十三号)として懲戒解雇処分をしたことは当事者間に争がないが、被解雇者各自に対する解雇通知書には「情が重い」事由は何等明示されておらず(甲第二号証参照)申請人組合に対する通知書にはわずかに「本事件に密接な関係のある」「十名を限つて懲戒解雇とした」旨記載(甲第一号証参照)されてあるところ、被申請人の疏明方法によれば、その真意は右被解雇者等はその主謀的中心人物であつて煽動的行為があつたものとなす如くであるが、証人Aの証言成立に争のない乙第四、十号証、真正に成立したと認められる乙第八号証の一、(但し一部、記録第六十二丁裏参照)同号証の三の(ッ)乙第十二号証中車掌B、C各陳述書を綜合すれば、本件食堂占拠事件には組合員以外の者も参加し、それ等の影響が相当大きかつたことが窺われるのみならず、前記説示の如く調停案が圧倒的多数で拒否されたにかかわらず、これと大差のない勧告案が組合員の充分な討議と諒解を得ることなくスト突入後三時間にして午前三時頃に代議員のみの臨時大会で受諾と決定したことや組合のスト中止指令は右食堂の占拠者に対して速かに徹底しない憾のあつたこと及び被申請人の主張によるも会社としては右事件のため或程度の犠牲を払つた上のことではあるけれども、当日午前のラツシユ時には系統車は平常通り運転したが臨時車が三十両予定のうち十七両しか運転できなかつただけで午後のラツシユ時は殆んど平常通り運転し得たことを彼此綜合して考えると被申請人提出の疏明資料によつては、前記のように本件被解雇者等に懲戒解雇に値する程の「情の重き」行為があつたことの心証を起さない。
 そうすると被申請人は就業規則に違反して懲戒解雇処分に付すべからざるものを処分したことになり、他の争点について判断を加えるまでもなく右処分は無効といわねばならない。