ID番号 | : | 04886 |
事件名 | : | 事業区域内立入禁止等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 松島炭鉱事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 従業員が会社の数回に及ぶ勧告及び制止にもかかわらず会社を誹謗中傷する内容のビラを会社に無断で事業所内に勝手に設置した掲示板に掲示したとして懲戒解雇された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動 |
裁判年月日 | : | 1950年5月18日 |
裁判所名 | : | 長崎地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和25年 (ワ) 40 |
裁判結果 | : | 一部認容・棄却 |
出典 | : | 労働民例集1巻3号445頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-政治活動〕 被告は原告会社勤務当初その妹婿にあたるA方に同居し、後に肩書地の本件社宅にその弟並びに母と共に転居したのであるが、本件社宅に転居後も右社宅に於て夜間遅くまで細胞員等と種々会合しているので、近隣者から睡眠休息の妨害となるとの非難を受けていること原告会社の大島鉱業所は、職員約三百三十名・鉱員約三千百名(内寮生約千名程度)を擁している有望炭坑で、事業地域は殆んど大島町全町に亘り、学校・警察署・役場出張所等の官公署も右事業地域内にある観を呈しているのであるが、被告が掲示板設置の個所として自認する地点(検証調書附図(1)(3))ビラ貼付のことを認める配給所家屋板塀(同附図(6))・病院下コンクリート壁(同附図(8))・真砂町住宅街水槽(同附図(10))等の諸地点は、いずれも大島鉱業所の枢要なる地点にあたり、日常同鉱業所勤務鉱員・職員・家族等は勿論、一般公衆の交通の最も繁華な地点附近で、鉱業所内部関係はもとより、外部に対しても最上の宣伝放果を目ざしていることが窺われるから、被告がこれらの地点で前記のような分派行動に出でて憚らないことは、経営者に於て終戦後の極めて困難なわが国の経済情勢に対処して、前記労働協約にもとづく経営協議会及び、専門委員会等を各月一回の割合で開催し、労資協調の実績をあげ生産秩序の安定と生産上昇の達成のため鋭意努力している状況に鑑み、その影響の波及するところ極めて甚大なものがあることは容易に看取できることを、それぞれ認定することができて、右認定を動かすに足る反証は一つもない。 もしそうだとすれば、被告の右認定のような行為は、執務時間中自己所属政党の主義・綱領宣伝にあたり、又故らに掲示板を設置して会社幹部を誹謗する内容の掲示並びにビラを貼付し、会社係員の再三に亘る制止・注意も無視して顧りみないで毫も反省の気色すら見受られないのは、前記賞罰規定第十条第三号に所謂承諾を得ないで在籍のまま社外の業務に従事する等甚しく背信行為をなしたものに該当するばかりでなく、第九号に所謂譴責又は減給の処分を受けても尚改悛の見込のないものに該当し、延て前記鉱員就業規則第二条に所謂職場の秩序を維持し、事業の円滑な発展を期しその職責を遂行すべき義務にも違背し、このことがとりもなおさず賞罰規定第十条第十号に所謂その他重要な法令諸規則に違反し不都合な行為のあつたものにも該当するものと解することができる。 従つてこれと略同一の見地から昭和二十五年一月八日開催された賞罰委員会に於ても全員一致を以て被告を懲罰解雇に附する旨の決議が為されたものであることは、前顕甲第四号証及び前掲証人の証言に照して明白であるが、尚被告に対し自発的退職並びにこれが反省を求めるためその猶予方を労組側賞罰委員から懇請されていたためその通告が延期されたのであるが、依然として被告はこれを肯んずる模様がなかつたので同月二十一日に至つて遂に右解雇の通告が為され、翌二十二日労働基準法第二十条による解雇手当の提供がなされ、次で被告の受領拒絶のため同年二月四日長崎地方法務局に対する弁済供託が為されるに至つたことも右証拠によつて明かであるから、被告は前記昭和二十五年一月二十二日を以て適法に解雇されたものといわねばならない。 被告は本件解雇は共産党員弾圧のためになされた不法解雇で、被告の行為はポツダム宣言第十条・日本国憲法第二十一条・労働基準法第三条等によつて保障された政治活動の自由を逸脱していないと抗争するのであるが、右憲法第二十一条等に所謂言論、出版その他一切の表現の自由も無制限の自由を認めたものではなく、公共福祉の見地から種々の制限を免れないものであることは敢て説明を要しないところであり、それぞれ具体的場合に処して各種の制約を受けることは自明のことで、本件に於ては被告等鉱員は、何より前記労働協約・就業規則賞罰規定等の適用を免れないものであつて、被告の右行為も亦前段認定したように右就業規則並びに賞罰規定に照して賞罰委員会の決議を経た上懲罰解雇に値するものと評価され解雇申渡しが為されるに至つたのであるから、該抗弁も亦採用できないことは明白である。 |