全 情 報

ID番号 04887
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本冷蔵事件
争点
事案概要  企業整備と経済九原則を理由として解雇された従業員が右解雇を不当として地位保全の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法2章
労働組合法7条1号
労働組合法16条
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 1950年5月22日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 昭和24年 (ヨ) 134 
裁判結果 一部認容・却下
出典 労働民例集1巻3号391頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕
 申請人等は本件協約第十条に従業員の解雇について組合の承認を要するという規定は労働条件の基準を定めたもので、規範的効力を有し、個々の従業員の労働契約の内容になつて了つていて、協約失効後といえども事後効力を有すると主張する。しかしながらかような約款は解雇の基準を定めたものとはいい難く、その性質上従業員各自の労働条件の内容となりえない。従つて申請人等の主張はこの点において既に理由がない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 被申請会社が昭和二十四年九月二十七日申請人等を含めて合計千七十七名を解雇したことは当事者間に争がなく申請人等は右解雇は解雇権の濫用であると主張するけれども、原本の存在とその成立に争のない疏甲第三号証の一、(疏乙第十八号証)証人A(第一囘)の証言によつて原本の存在とその成立を認めうる疏乙第十三号証、第三十六号証の一、二、第三十七号証竝びに前記A証人(第一囘)の証言によれば、
(一)、被申請会社の前身であるB株式会社は、昭和十八年四月水産業の綜合的運営のために設立され、戦時中は政府の要請で海外に多くの事業所を持ち、従業員を派遣したが、その他多数の応召者を出したのでその補充を行つたこと、空襲により工場施設の約四割に当る九十二工場が罹災し、終戦によつて海外の全事業所を失つたのに、海外派遣員と応召者が復帰して来、これら従業員を一応罹災を免れた内地各事業場に収容したため、施設と従業員数との間に甚だしい不均衡を生じたこと、
(二)、昭和二十年十二月統制業務の一切を廃止し、現在の商号に改め、冷凍業務に専念する会社として再出発すると同時に、従業員六千二百三十六名のうち約二割に相当する千四百五十八名の従業員を整理したが、まだ施設と人員の不均衡は是正されず、ようやく終戦後のインフレーションによつて企業の脆弱さを糊塗することができたこと、
 (三)、これを冷凍部門について見ると、被申請会社の昭和十五年ないし十八年度の平均比率は物件費六割に対し人件費四割であるのに、昭和二十一年ないし二十三年度は物件費四割八分に対し人件費五割二分で、冷凍産業における適正人件費三割五分という比率から著しくかけ離れ、一人当製氷量は昭和十五年度五百四十四瓲に対し昭和二十三年度は二百八十三瓲であつたこと、それは戦後の資材不足にもよるが、その最大の理由は施設資材に対し人員が過剰であることによつたこと、
 (四)、営業部門について見ると、昭和二十三年度収益を一億五千万円と見積つたのに、金融の枠が少なかつたこと、購買力の減退による競争の激化、産地高消費地安の逆現象のため、万全の措置を講じたのにも拘わらず実収益は僅か一億五十万円にすぎず、赤字経営に陥つたこと、
 (五)、金融部門について見ると、昭和二十四年五月三十日現在において、新旧合せ長期、短期の負債は合計約十三億二千五百万円あり、金融機関は極度に融資を警戒するようになつていたので、充分な運転資金を得ることができず、折角融資を得ても、当面の人件費の支払、旧債の返済等の関係から、事業資金の面に充て得たのは僅少に過ぎなかつたこと、昭和二十四年中合計四億五千万円の増資をなしたが、その払込資本金は悉く旧債の返済に充てなければならなかつたこと及びこのような資金難の対策としても企業整備の一環として人員整理による経費の節約が必要であつたこと、
 (六)、氷価について見ると、終戦当時瓲当金二十五円の生産者販売価格が、昭和二十四年には千二百二十円にまで引上げられたが、競争者の出現竝びに生産増加の傾向は価格の下落が必至であつたことなお当時水産業に対する補給金の削減ないし撤廃が盛に叫ばれ、その方面に生産量の約六割を向けていた被申請会社の蒙る影響も看過しえなかつたこと、
 (七)、被申請会社は一旦過度経済力集中排除法による指定をうけ、昭和二十四年七月その指定を取消されたが、取消に当つて、企業の合理的運営によつて公共の福祉に寄与すべきことがその条件の一つとされたこと、
 (八)、人員整理をしないでこのまま進んでゆくときは、一カ年約九千三百万円の損失を蒙るのに対し、人員整理を行うときは年間約二千五百万円の利益をあげ、前記負債も徐々にこれを返済しうること、等の点について疏明がある。右のような事情の下においては、約二割の従業員を解雇したからといつて、解雇権の濫用ではあり得ない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 しかしながら一般に不当な解雇であることを被解雇者側において立証するのは甚だ困難であるが、これに較べると、会社側においてその正当性を立証するのは容易であるから、本件においても解雇の正当性については被申請会社においてその立証をなすべきである。そして組合活動が活溌に行われているときは会社は組合活動の指導者を整理基準に該当する者として、解雇の挙に出る傾向が多いと考えられるから、被解雇者の側において労働組合員であること及び活溌な労働組合活動を為した事実又はその指導者であつた事実を立証するときは仮に会社側の右立証不十分な限り改正労組法第七条の適用を受けるべき解雇であると認めるより外はない。尤も、本件において被申請会社の為した申請人等の解雇は、会社がその経営難に際し、企業整備のため止むを得ずに為したものであるから、その解雇理由も相対的なものとならざるをえなかつたという事情は容易に想像しうることである。従つて本件において右解雇の正当性を判断するについては会社側のかような事情を斟酌しなければならないことは固より当然のことである。
 而して原本の存在およびその成立に争がない疏乙第十八、第五十三号証、証人Cの証言、同証言により原本の存在およびその成立を認めうる疏乙第三十八号証によれば、被申請会社が今次企業整備のために人員整理をなすに当つては適正人員を三千三十七名と決定しその余の従業員千七十七名を解雇することとし、その整理基準を(1)会社に対し非協力的な者すなわち(イ)非協力を公言し之を実行する者、(ロ)職場秩序を乱す者、(ハ)故意に出勤常ならざる者、(2)能力の低い者すなわち(イ)能力低位の者、(ロ)心身に故障あり勤務に堪えない者、(ハ)老齢のため勤務に堪えない者、(ニ)身体的理由のため出勤日数の少い者、(ホ)経験浅いため能率の上らない者と定めたことの疏明があり、
 又本件解雇が、昭和二十四年八月十日現在において作成された考課表に基いてなされたことは、証人Cの証言竝びに原本の存在とその成立に争のない疏乙第三十一号証、同証言によつてその成立を認めうる疏乙第三十二号証にその疏明があるから、申請人等が整理基準に該当するかどうかの判定も、その頃なされたものと考えるのが相当である。従つて不当労働行為かどうかを判断するには、その頃までの事実を基準として之を為せば足りる。