ID番号 | : | 04888 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 富士シルク工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 企業整備を理由として整理解雇された者が右解雇は実質上は正当な組合活動を理由とする不当労働行為であるとして地位保全の仮処分を申請した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条1項3号 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性 解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停 解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項 |
裁判年月日 | : | 1950年6月12日 |
裁判所名 | : | 甲府地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和25年 (ヨ) 21 |
裁判結果 | : | 一部認容・却下 |
出典 | : | 労働民例集1巻4号510頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇と争訟〕 被申請人は、組合員の解雇は組合員個人の権利義務に属する事項であるから、組合は所属組合員の一部に対する解雇の効力を争うため訴訟を追行する適格がないと主張するが、労働組合は所属組合員の労働を組織的に統制することによつて使用者に対抗し、これと対等の地位に立ち、労働条件の維持改善、労働者の権利の擁護に当るものであるから、所属組合員に対する解雇が団体協約に違反し又は不当労働行為となる場合に、その組合員の権利を保護しその地位を確保することは組合にとつて重大の利害をもち、その職能上することができなくてはならないところのものである。従つて組合は個々の組合員と並んで、組合の名において個々の組合員のために解雇の効力を争い、その従業員たる地位の確認につき訴訟を追行する適格があるといわねばならず、被申請人のこの点に関する主張は採用できない。 〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕 前記団体協約及び覚書(成立に争のない甲第二号証)について考えて見るのに、団体協約第四条には、会社は人事に就いてその決定に際しては予め組合に諮ると規定し、同第六条では、経営協議会は所定の事項につき報告、諮問、或は協議をすることと定められ、その諮問事項中には機構、職制及びそれに附随する諸規則の制定改廃に関する事項と生産計画とが含まれるのに対し、協議事項中には労働条件に関する事項と並んで人事に関する事項が含まれている、そしてなお団体協約の締結と同時に申請組合と被申請会社との間に覚書として確認されたところによれば、団体協約上人事という中には解雇が含まれることが明らかである。従つて協約の規定上第四条に人事について組合に諮るというのは協議より軽い意味合いで一応意見を徴するという程度のものと解するのは相当でなく、会社は解雇について経営協議会において協議することを要するものと解すべきである。 果してそうであるならば、かかる条項は組合員の解雇にあたり会社は人員整理の必要である所以を明示し解雇基準の設定及び被解雇者の決定について組合と隔意のない意見の交換を遂げるという意味において、労働者の待遇に関する基準を定めたものであるといい得るから、前記の通り被申請会社が申請組合と協議する機会も持つことなく、一方的になした本件解雇は右団体協約第四条に違背して無効というべきである。 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕 〔中略〕 仮に被申請会社において企業合理化として百十二釜繰糸を実施しある程度の人員整理の必要があるとしても、本件においてしかく早急に四十四名という多数のものを整理しなければならない緊急の必要があつたか否か疑問なしとしない。 而うして被申請人は男子従業員については補助的業務に従事するものを整理の対象とし、女子工員については技能、出勤状態、総評の三項目において採点し序列の低いものから整理したと主張し、申請人はその整理基準を不当であるとして争つているので、男子従業員の整理基準については暫く措き、女子工員の序列について、被申請会社の採用した採点方式を検討して見るのに、証人A、B、Cの各証言によれば、被申請会社が女子工員につき解雇の基準を被申請人主張の三項目の採点においたことはその主張のとおりであつて、そのうち技能点というのは平素工員に対し本給と共に支給せられる加給の如何によつて決定せられるもので、その加給というのは毎月十六日より翌月十五日迄の一ケ月間を仕切り、作業実績と勤務点とを前者を九十%、後者を十%の割合で算出して定め、作業実績は繰糸の係に関する限り、糸目、工程、職度、光沢の検査により略々客觀的機械的に定まり、勤務点は出欠、副産、整備、操行によりやはり相当客觀的に判定されるものであること、これに対して総評点は勤務成績乃至生産協力性という観点から各職場主任が独自の立場で採点したものであること、そして繰糸以外のすなわち煮繭、撰繭等の係においては技能、総評ともに該職場主任の主観的評価に一任されていることが疎明され、且つ技能点、出勤点、総評点の三者は相互に多少の重複する部分があり、殊に技能点と出勤点とはいずれも総評点と多分に重複していることを知り得るのである。而も右各疏明を更に細かく見て行くと、被申請会社はその採点において主観的評価の余地の多い総評を、相当客観的に判定される技能及び出勤状態の二項目を合したものと同等の比重を以つて取り扱つていることが分り、その点からするも右整理基準の妥当性は相当割引かれなければならないのである。そこで〔中略〕の女子工員成績調書(序列名簿)について、客観性の高い技能点と出勤点とだけを取り上げてみれば、本件被解雇者が解雇されなかつたものに比して必ずしも低位にあるものでないことが十分に了知され、従つて本件解雇にあたり、被申請会社の附した女子工員の序列もそのままに信用することは困難であるといわざるを得ない。そればかりでなく、成立に争のない疏甲第一号証と申請人代表者D尋問の結果によれば、組合の分裂前において組合役員の定数は十二名であつたこと、被解雇者中昭和二十四年三月より分裂当時迄の間組合役員の地位にあつたものが十一名に上ること及び別紙目録記載の男子工員五名はいずれも組合委員であつたことが疏明され、従業員総数に対する被解雇者の割合に比して組合役員の地位にあつたもので解雇されたものの占める比率が著しく高いものであることが分る。 〔中略〕 以上説示したところからして、本件解雇は、その表面の理由は兎も角、被解雇者中の相当数の者について、実質上同人等がE株式会社従業員組合の組合員であること、又は熱心に組合活動をしたという理由でなされたものと認め得られるから、労働組合法第七条第一号に違反し、不当労働行為としてその効力を生じないものといわざるを得ない。〔解雇-解雇の承認・失効〕 次に被申請人は本件被解雇者中D外二十八名のものが塩山公共職業安定所に求職の申込をして失業保険金を受領し、又Fを除くその他のものは解雇手当金を受領して居り、いずれも解雇をその後において確認していると主張し、G等被申請人主張の十名のものは解雇を確認して又D等十九名は解雇を確認しないで、いずれも塩山公共職業安定所に求職の申込をなし失業保険金を受領して居り、又Fを除くその他の被解雇者全部は解雇手当金を受領していることは当事者間に争のないところであるが、申請人代表者D尋問の結果によれば、退職金を受領したのは当然後に休業補償として貰えるものであると考えて受領したということであり、G外九名が職業安定所に対し解雇を確認したのは、そのようにしなければ保険金がとれないと考えたもので、その後解雇を確認しなくても保険金がとれる手続のあることが分り、D外十八名は解雇を確認しなかつたものであることが一応認められ、解雇の通告を受けたものが、その与えられた救済手続を出来る限り利用してその後の生活の維持を図ろうとするのは、他に生活の手段のない労働者として緊急止むを得ない事柄と考えられるのであるから失業保険金又は退職手当金の受領ということだけで、被解雇者が自ら不当と考える解雇を承認したものと認めることは相当でない。 |