ID番号 | : | 04889 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 池貝鉄工所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 会社存立の危機を未然に防ぐという名目で整理解雇された者が右解雇を正当な組合活動を理由とする不当労働行為であるとして地位保全の仮処分を申請した事例。 |
参照法条 | : | 労働組合法7条1号 労働組合法16条 労働基準法89条1項3号 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性 |
裁判年月日 | : | 1950年6月15日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和25年 (ヨ) 3 |
裁判結果 | : | 一部認容・却下 |
出典 | : | 労働民例集1巻5号740頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕 前示各単位組合が連合会と連名の上昭和二十四年八月二十日各自会社との間に締結した労働協約(内容同一、有効期間各一年)の第二十四条には「組合は経営権が会社にあることを確認する。但し会社は経営の方針、人事の基準、組織及び職制の変更、資産の処分等経営の基本に関する事項については再建協議会その他の方法により、組合又は連合会と協議決定する。前項の人事とは従業員の採用、解雇、異動、休職、任免及びこれ等に関連する事項をいう。」 との規定がありまた同日右協約当事者間に交換された労働協約に関する覚書には「第二十四条にいう人事の基準の実行にあたつては必ず会社は組合と十分に協議し組合の了解の上で人事の決定を行うことを約束する。」と定めてある。而して右の如き協約約款は当裁判所が既にしばしば説示したるが如く、労働者の待遇に関する基準を定めたものであり、ここにいわゆる協議とは当事者双方が信義則に基き十分なる協議をつくすの意味に解すべきものであるから、たとい外観上一応協議の形式を備えても、会社側のみの信義則違背により相手方を納得せしめるに至らない場合にはこれをもつて解雇の有劾なる前提要件となすことはできない。 〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕 会社は本件人員整理の基準として(1)出勤状態の悪い者(2)技術低位又は非能率の者(3)職務怠慢の者(4)社規を紊した者又は業務命令に違反した者若くは職場秩序を乱した者(5)会社の業務運営に協力しない者(6)精神若くは身体に故障があるか又は虚弱、老衰、疾病のため業務に堪えられない者の六項目を設け、三田工場では人員詮衡の方針として、各項目を五級(A、B、C、D、E)に区分し、これら各項目の採点成績を検討して綜合点甲、乙、丙、丁、と定めEのあるものを丁とし、C二つ以上のもの、D一つでもあるもの、E一つでも他の項目の成績がよく情状酌量の余地あるものを丙とし数次に亘り詮衡を重ねた結果結局丁該当者四十七名、丙該当者一名(基準(6)該当)合計四十八名を解雇した。また神明工場では各基準項目を四級(A、B、C、D)に区分し、各項目の採点の結果一応Cが二項目以上あるもの及びDが一項目でもあるものを整理候補者とし、数次詮衡を重ねた末、結局Cが三項目以上あるもの及びD該当者六十九名を解雇者と決定した。 〔中略〕 (3)(5)該当事実として会社の挙げる「同人の就業実績が少なかつた」という事実は、同人が過去長期間に亘り始んど組合役員であつたことによるものと認められるものであり、しかも旧協約時代にあつては、組合役員の就業時間中の組合活動は相当広範囲に認められていたのであるから、就業実績の少いことが組合業務以外の事由に基くことの疏明のない限り、これをもつて職務怠慢または非協力とすることは当らない。而してこの点に関する会社側の疏明は未だ不十分である。また(4)該当事実として会社の挙げる「就業時間中に共産党細胞機関紙の編集、印刷等をした」という事実も業務時間の私費という点より、むしろ共産党細胞の仕事であるという点に重点が置かれているように思われるのであつて、かかる考え方は政治活動に対する会社の偏見を示すものであり、しかもその頻度、消費時間等については、本件に現われた疏明資料の程度をもつては未だ職場秩序紊乱として特に取上げるに足りないものと認められる。 次に(4)(5)該当事実として会社の挙げる同人の放言なるものも、労使の立場の相違、当時の会社の状況並びに一般情勢等からすれば、労働者的立場よりする会社施策の批判または労働者意識の昂揚に対する見解の表明以上の意図をもつてなされたものとは認め難いから、その措辞に多少誇張的表現があつたとしても、これをとらえて云々すべきではない。もとより「会社企業の破壊のみを目的として右の言辞がなされた」という会社側の主張についてはこれを肯認するに足るなんらの疏明資料もない。同人の整理基準該当事実にして右の如きものであるとすれば、同人の従来の組合活動経歴に徴し、その解雇が結局は組合役員たること乃至正当な組合活動をしたことを理由とする不当労働行為に該当することは明白である。 |