全 情 報

ID番号 04891
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 富士産業事件
争点
事案概要  経営状態の悪化を防止する等の理由で整理解雇された者が右解雇を正当な組合活動を理由とする不当解雇であるとして地位保全の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働組合法7条1号
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1950年6月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和24年 (ヨ) 3313 
裁判結果 一部認容・却下
出典 労働民例集1巻4号563頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
 申請人等は、本件解雇が、組合活動をしたことを理由に差別待遇をしようとする被申請人会社の意図に基くものであることを主張し、被申請人は本件解雇が正当な事由に基く(整理基準に該当する)ものであることを主張しているがこの点については、
(1) 解雇基準に該当する事実が存在し、それぞれが、解雇を正当づけるに値するものであり、且つそれが解雇の決定的動機であつたか否か。
(2) 申請人等について正当な組合活動をしたことが解雇の決定的原因であつたか否か。(他に解雇原因が存すると否とを問わない。)
 という觀点から、不当労働行為の成否を判断すべきである。けだし、(1)の場合には、組合活動をしたことが、解雇の動機の一部となつていても、それを除いた他の原因が十分解雇を理由づけるものであれば、不当労働行為の要件としての差別待遇の意思があつたとはいえないし、又(2)の場合には、たとい解雇基準に該当する事実があつても、これを解雇の原因としたいならば、差別待遇の意思の存することは明かだからである。(不当労働行為の制度が組合活動に参劃した労働者個人の救済を介して、労働基本権そのものを保護しようとするものであることにかんがみ、解雇原因が競合する場合にも、組合活動をしたことが解雇に対する決定的原因であるときは不当労働行為が成立すると解すべきである。)
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 被申請人会社の挙示する解雇基準のうち、(8)(配置転換の困難な者)(9)(業務縮小の為適当の配置なきに至りたる者)(10)(其の他経営効率に寄与する程度の低い者)の三項目は綜合判断の帰結を示すものであつて、それ自体独立して解雇基準となるものではない。
 けだし、被申請人の主張、立証を綜合すると(8)、(9)についてもこれに該当するということは、特定の職場において、従業員の定員を減少したため余剰の人員を生ずることとなつたのでそれらのものは他の職種又は職場に転換し得られない限り、余剰人員として整理されなければならないことを意味していることがわかる。すなわち、(8)(9)に該当するとは、そのものが余剰の人員であるということを前提としている。しかるに企業整備に伴う人員整理とは、経営効率に寄与する程度の低い余剰の人員(これが(8)(9)(10)に該当する)を解雇することにほかならないのであるから、なぜ特定の従業員をかかる余剰人員として解雇しなければならないかという具体的な理由は、(8)(9)(10)によつては、直接に判定し得ないということができる。本来、解雇基準とは、何人がこのような余剰人員であるかを判定、詮衡するための基準たるべきものであるから、本件の場合には、(1)ないし(7)が第一次的な解雇基準であり、(8)(9)(10)は、(1)ないし(7)に該当する事由がある場合に、その従業員を他のものと比較ないし全体の関連において、解雇の要否を綜合的に判断するための基準(むしろ法則)というべきである。〔解雇-解雇の承認・失効〕
 本件申請人等は、いずれも、解雇予告手当及び退職金を受領しているが、それは本件仮処分申請後のことであり、現に本件仮処分を追行して、解雇を爭う意思が明かであるから、右退職金等の受領により、本件解雇を承認したということはできない。