ID番号 | : | 04901 |
事件名 | : | 地位保全事件/金員支払仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 井谷運輸産業(佐藤)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 運送会社が、同社所有の営業免許を受けた車両を、通常の社員である「従業員運転手」とは異なる「受け取り」という者が購入したという形式のもとで同人に専属的に使用させて運送業務に当らせ、右「受け取り」につき期間一年の契約を締結し一回更新した後に期間満了を理由に更新を拒否したことに対し、右「受け取り」の者が地位保全の仮処分を申請した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法9条 労働基準法21条 民法1条3項 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 傭車運転手 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め) |
裁判年月日 | : | 1990年5月8日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成1年 (ヨ) 2065 |
裁判結果 | : | 一部認容・却下(確定) |
出典 | : | 労働民例集41巻3号395頁/タイムズ744号108頁/労働判例565号70頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 松尾邦之・労働法律旬報1264号33頁1991年5月25日 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-労働者-傭車運転手〕 1 申請人と被申請人会社との関係 申請人が契約していた「償却」制度とは、被申請人会社が所有し営業免許の許可を受けた車両を、「受け取り」の者が「購入」したという形式(名義は代金完済後も会社のままであるし、現実に「受け取り」の者が当該車両を会社との契約上の仕事に使用することをやめた後に引き取った事例があったとの疎明はない。)をとり、同人に同車を専属的に使用させて運送業務にあたらせ、水揚げ金額に応じた全額歩合制の報酬から車両の購入代金や自動車税その他の経費を差し引いて支給し、自動車の燃料等の運行諸費用、点検・修理等自動車に要する経費等も同人に自己負担させるという概要のものであった。 〔中略〕 本件契約は書面上請負契約的形式をとっており、申請人には「従業員運転者」と異なりタイムカードによる管理はなされず、荷物を宵積みした自己使用車両に乗って帰宅して翌朝出社せず直接配達先に向かうことも許されていたこと、報酬についてもその算出システム(「受け取り」の者は「従業員運転者」のような基本給・残業手当その他の諸手当・賞与等の支給を受けず、退職金の制度もない。)、支払い時期・方法(当月二〇日締めの分を「従業員運転者」は当月末現金支給。「受け取り」の者は翌月一五日指定口座振込払い)、また企業内の福利厚生面(特に健康保険・厚生年金保険・雇用保険等に「受け取り」の者は加入していない。)でも「従業員運転者」と異なった扱いを受けていたことが一応認められる。 (なお、企業内の組合にも「受け取り」の者は入れないとされ、明確に区別された扱いを受けていた。) しかし、結局のところは「受け取り」の者と「従業員運転者」との主たる相違は報酬の算出システムにあり、ことに「受け取り」の者の側の意識としては、単に自己がその使用車両の償却費・税金・燃料その他の車に関する経費・危険を負担するかわりに全額出来高払いで「従業員運転者」よりも高額の収入が見込めるということに尽きるといえるが、現実には(特に未だ車両償却期間中である場合は)報酬面でも格段の差異はなかったことが一応認められる。 5 申請人の労働者性についての判断 「労働者性」の判断基準は使用者との実質的使用従属関係の有無に求められるところ、以上認定の事実によれば、結局、被申請人会社は申請人を労働時間中拘束してその指揮監督下においており、申請人と被申請人会社との間には実質的な使用従属関係があったと考えるのが相当であり、申請人の労働者性は優に認められる。両者の間には労働契約関係が成立していたものというべきであって、本件契約が被申請人主張のごとき単なる請負契約とはいえない。〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕 前認定のとおり「受け取り」者と「従業員運転者」とでは、その従事する仕事内容自体は同一で臨時的性格はないこと、両者の差異は主として報酬の算出システムにあるといえるが前記一3(二)の試算では申請人の場合車両償却後に初めて「受け取り」の実質的うまみが享受できる仕組みであったとさえいえるところ、申請人の「購入」した車代金二六〇万円は償却期間三年の均等分割払とされており、毎月の報酬から「車両償却費」として七万二二二三円、「割賦支払利息」として二万一六六七円の合計額である九万三八九〇円を三六か月間控除された後にようやくこの額についての「受け取り」制度のうまみが享受できる仕組みになっているが、本件「解約告知」時点では未だ二か年しか経過していないこと、また現実の運用としても契約書の文言に「双方より何等かの申出なき時は更に一ケ年延長する」と記載されているように、申請人はもちろん他の「受け取り」者についても期間満了の都度直ちに新契約締結人の手続をとるのではなく、逆に何らの手続なしに原則として反復更新する運用がされてきたことが一応認められることから考えれば、本件契約書上の期間の定めにもかかわらず、労使双方がともに期間満了時に労働契約が終了すべきことを予定していたとは認めがたく、むしろ、被申請人会社としては、特段の事情のない限り労働契約を更新することを予定し、申請人としてもまた引き続き働けることを期待していたものであって、実質においては、当事者双方とも、期間の定めは一応あるが、いずれからか格別の意思表示のないかぎり当然更新されるべきものと考えており、このような考えのもとに本件労働契約関係は締結され、存続されてきたものというべきである。 (三) 以上から、右のような本件契約を終了させる趣旨のもとにされた本件「解約告知」による期間更新拒絶の意思表示は、実質において解雇の意思表示にあたると解されるから、その効力の判断にあたっては、その実質に鑑み解雇の法理を類推すべきである。 3 本件「解約告知」の効力についての判断 (一) ところで、被申請人会社が、本件契約の更新を拒絶した理由としてあげるものは、被申請人会社により昭和六三年六月になされた「受け取り」者に対する集荷歩合の切り下げと専用ホーム使用料の月額一万円から五万円への切り上げにつき、申請人が、従前の条件に改定するよう求めて被申請人会社と折り合いがつかなかったということのみである。 しかし、申請人が被申請人会社に対し労働条件等の改善を求める申し入れをなすこと自体は、労働者である申請人の立場からは当然の行為であるし、前記二1認定の事実によれば、申請人のなした集荷歩合の単価や専用ホーム使用料等についての申し入れがその態様において特に問題とされるべきものであったとも疎明されないから、右の申し入れがあったことのみをもって解雇の理由とすることは到底なしえない。 (二) 以上、申請人と被申請人との間には労働契約が成立しており、期間の定めについては前記のとおり解されるので、本件「解約告知」の効力の判断にあたっては、解雇の法理を類推すべきであり、解雇には正当な事由が必要であるところ、被申請人の主張する期間更新拒絶理由は解雇の正当事由にはなりえないものであるから、本件「解約告知」は解雇権の濫用として、その余の点について判断するまでもなく無効なものというべきであり、申請人は依然として被申請人会社に対し労働契約上の権利を有する地位にあるものである |