全 情 報

ID番号 04909
事件名 賃金等請求控訴事件
いわゆる事件名 吉田興業事件
争点
事案概要  ビル管理業等を営む会社に雇用され、右会社が業務委託を受けている水資源開発公団の出張所に住み込み、その管理、清掃等の業務に従事していた者が右会社に対してなした就業時間外ないし休日の労働に係る労働につき割増賃金を請求した事例。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法41条3号
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
裁判年月日 1990年5月30日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ネ) 471 
裁判結果 一部認容棄却(確定)
出典 労働民例集41巻3号475頁/労働判例566号57頁/労経速報1404号7頁
審級関係 一審/津地四日市支/昭61. 7. 1/昭和58年(ワ)144号
評釈論文
判決理由 〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 被控訴会社は、公団から本件出張所の管理等に関し仕様書記載のとおりの業務を委託され、被控訴会社の従業員である控訴人らに対し右業務を職務内容として指示し、控訴人らに対する実際の指揮、監督を公団側にも重畳的に委ね、公団職員も、控訴人らに対して仕様書に基づいて仕事を指示していたものということができる。そして、公団職員が退庁した後の戸締まり等の仕事をするために公団職員が退庁するまで待機している時間は、いわゆる手待ち時間として労働時間に含めて考えるべきものであるが、控訴人Xにおいて、公団職員が退庁した後その日のうちにしなければならない仕事に要する時間は極くわずかなものであり、退庁後であれば、いつその仕事をするかは同控訴人の自由であるとの事情を考慮すると、被控訴会社の就業日においては、就業時間の終了した午後五時以降、同控訴人が現実にその仕事をした時刻までではなく、その仕事をすることのできる状態になった時刻まで、すなわち、公団職員が最後に退庁した時刻までの労働時間を、また、被控訴会社の休日においては、午前八時から午後五時までの労働(但し、休憩時間一時間)を、被控訴会社の包括的な業務命令に基づくものと認めるのが相当である。しかし、就業開始時刻である午前八時より前に行った労働及び公団職員退庁後にしたものであっても翌日の就業開始後にすれば足りる後片付け等をした労働は、被控訴会社ないし公団の指示に基づくものと認めることはできず、控訴人Xの自発的な行為というべきである。
 被控訴会社は、控訴人Xの職務が管理業務であって、労働密度の極めて薄い精神的緊張の伴わない軽易な労務であり、法四一条の労働基準監督署長の許可を得なくても労基法の労働時間及び休日に関する規定は適用されない旨主張するところ、前認定の事実によれば、同控訴人の就業時間外及び休日における労働が労働密度の薄い精神的緊張の伴わない軽易な労務で監視、断続的労働であるとは認められるけれども、被控訴会社が同控訴人の労働につき法四一条の許可を得ていない以上、労働時間及び休日に関する規定の適用は免れないというべきである。けだし、法四一条の趣旨は、監視又は断続的労働と一般の労働との区別は実際には困難な場合が多く、監視、断続的労働であることを口実に不当な労働時間形態がとられることもあるため、これを事前に労働基準監督署長に判断させ、労働者の保護を図ろうとしたところにあると解されるからである。したがって、被控訴会社は、控訴人Xに対し、時間外、休日労働について法三七条の割増賃金を支払う義務があることになる。