全 情 報

ID番号 04916
事件名 地位保全金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 相互製版事件
争点
事案概要  腎臓障害により人工血液透析療法を受けている労働者が雇用関係の存否をめぐる争いにつき地位保全の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
裁判年月日 1990年6月15日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成2年 (ヨ) 561 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例565号58頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 (三) 申請人は、整版課へ配置転換されて間もない平成二年一月一六日午前一一時ころ、就労中に管理部・製造部部長Aから役員室に呼び出され、被申請人の代表取締役B・常務取締役Cの同席する場で右三名から前記疾病を有することを理由に退職の勧奨を受けた。申請人は、突然の話に精神的に動揺して返答をしかねていると、右Aから同年二月二〇日付で解雇する旨及びそれまでの間は年次有給休暇で処理するので出社に及ばない旨を告げられ、年次有給休暇の請求手続をとるように指示された。申請人は、職場に戻って業務に従事した後、午後四時すぎころ、解雇されたことを同僚らに挨拶して回ったが、同僚の一人から解雇の理由を書面でもらったほうがよいとの助言を受け、前記Cに解雇理由を書面にして交付してもらいたいとの申し入れをなし、翌一七日からの年次有給休暇の請求手続をしたうえで退社した。
 (四) その後、同年一月二九日ころには身体の障害により業務に耐えられないことを理由に同年二月二〇日をもって解雇する旨の解雇通知書及び退職金共済手帳が、同年二月八日ころには財形積立預金の解約書類等がそれぞれ被申請人から申請人に郵送された。申請人は、同月八日ころ、中小企業退職金事業団に対する退職金請求書に署名捺印のうえ必要書類を添付して被申請人に返送し、また、同月一三日ころには財形積立預金の解約書類についても署名捺印のうえ被申請人に返送する等したが、同年三月一日ころ、前記Aに電話して退職金の振込を見合わせてもらいたい旨を伝える等して解雇の効力を争う意向を示した。
 以上によれば、平成二年一月一六日に申請人が被申請人の退職勧奨に応じて任意退職する旨の意思表示をしたとの被申請人の主張事実は疎明がなく、また、申請人が同日に有給休暇の請求手続をしたことやその後に退職金請求書等の書面に署名捺印したうえ被申請人に返送したこと等は前示のとおりであるが、これらの事実のみをもって申請人が被申請人からの解雇の意思表示に承諾を与え、あるいは解雇の効力を争わないとの確定的な意思を表明したものと解することも相当でないというべきである。
3 本件解雇の効力
 なお、本件解雇の普通解雇としての効力について付言するに、疎明資料によれば、被申請人の就業規則では、従業員が精神又は身体の障害により業務に堪えられない場合には普通解雇する旨の規定が設けられており、本件解雇も就業規則の前記条項に基づいてなされたものであることが一応認められる。
 しかしながら、疎明資料によれば、申請人は、前示第二回目の入院治療の後の平成元年五月八日から出勤し、同日以降本件解雇に至るまで無遅刻・無欠勤であったこと、申請人は週二回、一回四時間の人工血液透析療法を受けることを余儀なくされているが、右療法さえ怠らなければ就労は可能との医師の診断を受けていること、さらに、同年六月からはいわゆる夜間透析を受けているので、右療法を受けること自体も週に二日残業ができなくなるほかは勤務に支障を及ぼすものではないことが一応認められる。
 以上の疎明事実によれば、本件解雇当時の申請人の身体の状態が就業規則の前記条項に該当するものとは到底いいがたく、本件解雇が就業規則の前記条項を根拠とするものとしても、無効であるといわざるを得ない。
 また、被申請人は、申請人には他の従業員との協調性に欠ける面があり、勤務成績が不良であった旨をも主張するが、右事実については疎明が足りない。