全 情 報

ID番号 04919
事件名 地位保全金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 大陽電線事件
争点
事案概要  資材課長に対する製品の不正搬出行為を理由とする懲戒解雇につきその効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1990年6月22日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成1年 (ヨ) 3313 
裁判結果 一部・却下・認容
出典 労働判例565号42頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 1 申請人に対する懲戒解雇事由、要するに申請人が軟銅線ボビンの不正搬出に関与したことについては、疎明が足りないというべきである。たしかに、Aの陳述はかなり具体的で一貫したものであり、被申請人の複数の従業員がAの陳述の一部を裏付けるような体験をしていることでもあるから、Aの陳述は一応信用できるようである。しかし、Aの陳述によっても、申請人の右搬出への関与は申請人のAに対する出荷指示以外にはないのであるから、申請人が不正搬出に関与したというためには右出荷指示の点が明らかにされなければならない。ところが、六月二六日および三〇日の両日とも、申請人がAに指示したという時間帯は勤務時間中であり、その場所は他に従業員もいる工場内であるにもかかわらず、そのころに申請人を目撃した者が誰も現れないというのは、もっとも重要な事実が明らかにされていないというべきものである。また、右搬出は、当然発行されるべき送り状なしでされているが、申請人が工場長付となるまでAの上司(資材課長)であったとしても、すでに上司の地位を離れている申請人のいうままにAが二回も送り状なしで出荷したというのも、あまりにルーズな事務処理であって、容易に納得できない点である。さらに、工場からボビンを搬出して以降の運搬および処分の主体、経過がわかれば、その点から被申請人社内の関与者を推定することができることもあるであろうが、本件では誰がトラックでボビンを搬出し、これをどこに運んでどのように処分したかも一切明らかになっていない。以上のほか、事情はともかく被申請人が被害届を撤回したため、捜査当局によって不正搬出の実態が解明されることなく終わったという事実のもとでは、申請人が右不正搬出に関与したというには、それにそう疎明は一応あるものの、なお重要な点において疑問があり、結局疎明が足りないというほかない。
 したがって、被申請人のした懲戒解雇は、その主張する就業規則所定の懲戒解雇事由を認めるに足りず、無効であるというべきである。