ID番号 | : | 04921 |
事件名 | : | 地位保全金員支払仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 東豊観光事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 定年は満五五歳とする旨の就業規則の規定に基づいて解雇された労働者が満五六歳までは正社員として勤務する慣行が成立していたとして地位保全の仮処分を申請した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条1項3号 |
体系項目 | : | 退職 / 定年・再雇用 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1990年6月28日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成2年 (ヨ) 715 |
裁判結果 | : | 一部認容・却下 |
出典 | : | 労働判例565号28頁/労済速報1414号10頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔退職-定年・再雇用〕 労働慣行が成立していると認められるためには、長期間の同一事実ないし行為の反復継続及び反復継続されている事実・行為が就業規則制定権者及び労働者双方の規範意識に支えられていることが必要であると解されるところ、前記(一)において認定した事実関係(以下「前記(一)事実関係」という)のうち、とりわけ、被申請人は、少なくとも最近五年余りの間、前記就業規則の規定にもかかわらず、従業員が満五五歳を迎えても原則として満五六歳あるいはその前日まで正社員の身分を容認していたことが認められるものの、他方において一切の例外が無かったわけではないこと、また申請外社長は、労使間の交渉の場において原則として満五六歳の前日まで正社員の身分を容認していたことは既得権であるという趣旨の発言をなしてはいるものの、就業規則上の定年を何ら例外なく一年延長することまで意識していたとはいえないことによれば、結局のところ、就業規則上定められた定年を例外なく一年間延長する労働慣行が成立しているとまで認めるに足りる疎明資料は存しないと言わざるを得ない。 しかしながら、前記(一)事実関係によれば、被申請人は、従業員が満五五歳の定年を迎えた場合、当該従業員が希望する限りにおいては原則として、満五六歳の前日まで当該従業員について引続き正社員として勤務することを容認する慣行が成立していると一応認めることができる。〔解雇-解雇権の濫用〕 申請人は平成元年一一月から平成二年二月までの給与期間中、無事故手当を毎月満額受給しており、この点からいっても申請人の運転手としての平均的資質、能力を疑うに足りる理由はないと認められること。 以上に加えて、前記(一)事実関係のうち、とりわけ本件解雇通知がなされた時期は、組合が、自交総連に加盟し、また労働基準監督署、近畿運輸局へ請願行動にでたこと等によって、労使間に甚だしい摩擦が生じていた時期であったこと、申請外社長は、労使間の協議会等の場でしばしば組合を嫌悪する発言をなしていたこと。 更にまた、本件解雇通知をなした前後において、被申請人申請人間ないしは被申請人組合間において本件解雇についてしばしば話題にされたにもかかわらず、被申請人が、前述の顧客からの苦情に関する事実について言及していたということを示す疎明資料は全く存在しないものであること。 これらを総合すると、被申請人の申請人に対する本件解雇は、申請人が従来から顧客に苦情を受けることが多かった等同人の勤務ぶりに問題があったことを理由とするものではなく、同人が組合役員であることを嫌悪してなされた疑いが極めて強いと認められる。 したがって、被申請人の申請人に対する本件解雇は、その裁量を誤ったものであって解雇権の濫用により無効であり、申請人は満五六歳を迎える前日である平成二年一二月三一日までは被申請人の従業員たる地位を有するものと一応認められる。なお、平成三年一月一日以降申請人が、被申請人の従業員であることの疎明はない。 |