全 情 報

ID番号 04950
事件名 地位保全並びに賃金仮払い仮処分申請事件
いわゆる事件名 延岡学園事件
争点
事案概要  教室内でのリボン闘争、生徒への組合文書の配布等を理由とする懲戒解雇につき、権利濫用にあたるとされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1989年11月27日
裁判所名 宮崎地延岡支
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ヨ) 37 
裁判結果 認容
出典 労働判例559号81頁/労経速報1395号3頁
審級関係
評釈論文 鍬田萬喜雄・労働法律旬報1231・1232号66~87頁1990年1月25日/石崎誠也・教育判例百選<第3版>〔別冊ジュリスト118〕194~195頁1992年7月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 五 懲戒事由該当性及び解雇権濫用について
 1 前記二ないし四で本件解雇理由とされた組合活動につき各別に考察した結果を総合すると、本件解雇の理由としてあげられた(一)教室でのリボン闘争、(二)生徒への組合文書の配付、(三)学園の名誉を毀損する文書の配付、(四)施設内における文書配付のうち、(一)の点は勤務規定三〇条二号の遵守事項に、(三)の点は勤務規定三二条四号の禁止事項にそれぞれ違反し、かつ、いずれも違法な組合活動というべきであり、また、(二)の点は勤務規定三一条二項の承認事項には違反しないがやはり違法な組合活動というべきである。そして、右(一)ないし(三)の各点は、勤務規定四九条二号及び五号の懲戒事由にそれぞれ該当するということができる。しかしながら、(四)の点は、同規定三一条二項の承認事項に形式的には抵触するが、実質的には該当しないというべきであるから、懲戒の対象とすることは許されない。
 ところで、債権者が組合の執行委員長として(一)ないし(四)の各組合活動で指導的地位を占め中心的役割を果たしたことは、従前の各認定事実及び弁論の全趣旨を総合してこれを認めることができる。そうすると、債権者については、(四)の点は懲戒の対象とすることができないものの、(一)ないし(三)の各点で懲戒事由が存するといわなければならない。
 2 前記一2に述べたとおり、勤務規定には、職員が懲戒事由に該当する場合には懲戒処分として譴責、減給、出勤停止又は懲戒解雇の処分をすることができる旨定められていることが認められる。解雇は、継続的な労働契約関係を終了させ、労働者の生活基盤を失わせるという点で、労働者に重大な不利益を与えるものであるから、債権者に認められる前記懲戒事由について懲戒解雇という処分を選択したことが果たして相当であったか否かが、次に検討されなければならない。
 まず、前記二で考察したように、(一)及び(二)のリボン闘争及び生徒への組合文書の配付は、一連のものとして同日になされたものであり、ともに違法な組合活動ではあるが、その各態様等からして違法性の程度はいずれも低いものであったというべきである。右に照らすと、両懲戒事由を併せても、およそ懲戒解雇をもって臨むようなものとは到底いうことができない。
 問題は、(三)の行政指導申入れに関わる名誉毀損文書の配付の点である。前記三で考察したように、行政指導申入れの一八項目のうち四項目は不当な内容のものであり、これらについての行政指導申入れ及び父兄等への公表が、債務者の名誉・信用を毀損する違法な組合活動であったことからすると、懲戒解雇を選択肢として想定することは一応あり得ないことではない。しかしながら、前記三でさらに考察したように、不当性の強い右二項目についてもなお債権者に有利に斟酌すべき事情が存すること、その余の二項目については違法性の程度はさほど強いとはいえないことからすると、(三)の懲戒事由について懲戒解雇を選択することは甚だ重きに失するといわざるを得ない。そして、この結論は、(一)ないし(三)の懲戒事由を全部総合して考慮しても、なお変わらないというべきである。
 なお、(証拠略)によれば、勤務規定では過去に懲戒処分があった者につき懲戒が加重される旨の定めが置かれていることが認められ、(証拠略)によると、債権者は昭和五〇年に組合文書の無許可配付等を理由に訓告の処分を受けたことがあると認められる。右処分が十年以上も前のしかも最も軽い不利益処分であったことに徴すると、右懲戒加重の規定は、前記結論を全く左右するに足りないことは明らかである。
 そうすると、債務者が債権者に対しその違法な組合活動を理由に懲戒解雇という重大な不利益処分を行ったことは、違法とされる行為と処分との間の不均衡が著しいというべきであるから、解雇権の濫用に当たるということができる。