ID番号 | : | 04962 |
事件名 | : | 労災補償審査決定取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 山口労災保険審査会事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 炭鉱で就労していた労働者が仕事中転倒しその際胸部に打撲をこうむりその傷は三カ月ほどで治ゆしたが、その後胸部痛、頭痛、不眠等を覚えるようになり、右諸症状を業務上の負傷に起因するものであるとして労災保険給付の請求をした事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法12条 労働基準法施行規則35条1号 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 災害性の疾病 |
裁判年月日 | : | 1953年7月30日 |
裁判所名 | : | 山口地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和28年 (行) 14 |
裁判結果 | : | 取消・認容 |
出典 | : | 労働民例集4巻4号379頁 |
審級関係 | : | 控訴審/04964/広島高/昭29. 4. 8/昭和28年(ネ)158号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-災害性の疾病〕 原告の外傷性神経症は右(二)で認定した関係において本件業務上負傷を原因とする疾病であるが、それが災害補償に値する「業務上の疾病」と言い得る為には、換言すればそれが労働基準法施行規則第三十五条第一号の「負傷に起因する疾病」に該当する為にはこの規定の解釈上右両者の間に法律上の相当な因果関係がなければならないことは当然である。そして原告にみるような何等の器質的病変を有しない外傷性神経症は鑑定人Aの鑑定の結果によれば本件業務上負傷と同程度の業務上負傷を受け、何等の器質的病変を残さない場合受傷者の誰もがこれを惹起するものではなく、又右の疾病は常に業務上の負傷を直接の原因として起るものではなく単にそれを心因的起因とするものにすぎないものであることが明らかであるが、労働者保護立法の一環として特段の事情ある場合を除くの他原因の如何、責任所在の如何を問わず凡そ労働者が業務に関係して労働能力の減退乃至喪失を惹起した場合迅速且つ公正に当該労働者及びその家族の生活保護乃至労働能力の回復を計ることを目的とする労働者災害補償保険法の精神に鑑みるときは前記の事実を以つて直に器質的病変を有しない外傷性神経症は一般的に業務上の負傷と相当な因果がないと言い去ることはできない。一方同人の鑑定の結果によれば右のような外傷性神経症は受傷者が自分の受けつつあり且つ将来受けると予想される待遇よりもより以上のものを希求する(これが主として災害補償欲求に関するものであることは容易に推察される)心的準備状態を不可欠の一因として生ずるものであることが明らかであるが、右のような心的準備状態は右の疾病に対しそれ自体業務上の負傷と何等の関係を有しない別個の原因とみるべきであり、且つそれが各症例により強弱種々に作用することは右の鑑定結果から容易に推認されるからこの事実のみを以つてしても右のような外傷性神経症が業務上負傷と一般的に相当な因果関係があるということは到底できない。このように考えてみると結局原告にみるような何等の器質的病変を有しない外傷性神経症が業務上の負傷と相当な因果関係があるか否かは前記立法の精神とその疾病の特異性に照らしながら、業務上負傷の状況、種類及びその程度、災害補償願望意識の態様(潜在的か、顕在的か、抑制的か、意欲的か等)神経症発生の時機及び態様、神経症の具体的症状、殊に他覚的症状の有無、労働能力減退の程度、その他諸般の事情を考慮して具体的事件毎にこれを判断する他はない。飜つて本件における原告の業務上負傷と前記期間におけるその外傷性神経症に関する具体的事情は以上述べてきたとおりであるが右に述べた見地に立つて慎重に判断すれば右の負傷と疾病の間には相当な因果関係があるということができる。従つて原告の外傷性神経症は前記労働基準法施行規則第三十五条第一号の「負傷に起因する疾病」として業務上の疾病に該当する。 |