全 情 報

ID番号 04973
事件名
いわゆる事件名 木挽職人死亡事故事件
争点
事案概要  製板事業を営む者のところで木挽として就労していた者がケヤキ材のスミカケ作業の際にその下敷になり死亡した事故につき、遺族補償が請求された事例。
参照法条 労働基準法79条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務中、業務の概念
労災補償・労災保険 / 労災保険の適用 / 労働者
裁判年月日 1955年9月10日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (ワ) 4568 
裁判結果 認容
出典 下級民集6巻9号1961頁/労働民例集6巻5号714頁/タイムズ51号51頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務中、業務の概念〕
〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-労働者〕
 亡Aは昭和二十五年夏頃から被告方に出入りし月平均五日ないし十日位雇われて木挽作業に従事してきたものであつて、被告の専属的労務者でなく、被告方に仕事のないときは他に雇われ、また継続的作業のため被告に雇われ中でも、他に急の仕事のあるときは一時中止して他に雇われその仕事を終つてから前の作業を継続することもあり、作業時間も厳格でなく、賃金は当初一日三百五十円であつたが死亡当時一日六百円と定められ日給で支払われたけれども作業時間により適当にその額を協定していたものであつて、その作業をなす日も特に指定しない限りAにおいて随時被告の作業場に到り仕事をなしこれに賃金が支払はれるという状態であつたことAは作業にあたつては朝九時か十時頃墨、鋸、指尺、やすり、弁当等を持参して被告の指示に従つてすみかけを行い(被告の指示がなくて行うことはない)これに基いて木挽をするのであるが、日没少し前に作業をやめ翌日も引続き作業を継続する時は鋸等を被告方に預けておいて帰宅し、翌日被告方で継続してなすべき作業のないときはこれらの道具を持帰ることを常としていたこと、Aは昭和二十六年二月下旬から三月二日頃まで被告に雇はれ木挽作業に従事し翌三日より被告の依頼により福島県下に出張することとなつたがその頃被告はAに被告方にある前記欅材の木挽作業を命じたが、その作業日については特に指定しなかつたこと、そして三月二十二日帰京後同月二十六日被告の命により細物の胴割りに従事したけれどもこれは特に急がれていた註文品であつたのでさきに命ぜられていた欅の木挽作業をさしおいて行つたもので同日Aは鋸等の道具を被告方に預けて帰宅し、同月三十日右欅材のすみかけに従事中その下敷となつて死亡したこと、以上の事実を認めることができ右認定に反する被告本人尋問の結果は措信しない。
 右事実によれば、被告とAとの雇傭契約は日々成立するものであるけれども、作業日を指定することなく或る仕事を命じたときは、Aが随時被告の作業場に到りその仕事に従事する都度雇傭契約の成立する合意あるものと認めるのが相当であり従つてAが本件事故当日被告の事業場において欅材の墨かけに従事したのは雇傭契約上の作業を遂行したものであつて、その作業に従事中欅材の下敷になり死亡したのは、労働基準法第七十九条にいうところの業務上の死亡に該当するものというべきである。