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ID番号 04994
事件名 損害賠償債務不存在確認事件
いわゆる事件名 多摩中央運送事件
争点
事案概要  自動車事故により被災した負傷者に対して国が労災保険の給付を行い加害者に対して求償権を行使したケースで、被災者が加害者との示談により加害者に対する損害賠償請求権を放棄していたことが右求償権の行使にどのような影響を及ぼすかが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法20条1項(旧)
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 国の求償権、示談との関係
裁判年月日 1961年4月11日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ワ) 387 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 下級民集12巻4号771頁/訟務月報7巻6号1206頁
審級関係 控訴審/東京高/   .  ./昭和36年(ネ)976号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-国の求償権、示談との関係〕
 1 被告は以上のAに対する保険給付をした価格の限度で労災法第二〇条第一項に基き、Aが原告に対して有する損害賠償請求権を取得するものというべきである。
 原告は同条項にいう第三者とは被災労働者に対し不法行為を行つた者に限定されるというけれども、かかる解釈を採用すべき根拠はない。
 同条によれば、右の第三者とは被災労働者との間に労災保険関係のない者で被災労働者に対して不法行為等により損害賠償責任を負う者と解するのが相当であるから、民法第七一五条により使用者として責任を負う者ないし本件のように自動車損害賠償補償法第三条により「自己のために自動車を運行の用に供する者」として責任を負う者をも包含するものというべきである。
 2 次に原告は、Aは被告から保険給付を受ける前に原告に対し損害賠償請求権を放棄したものと主張する。
 成立に争がない甲第三号証、第三者作成にかかり真正に成立したものと認める甲第四号証と証人B、同Cの各証言を綜合すれば、Aは前記負傷後原告やBから示談の申込を受けていたが、D鉄工所の職員などより労災保険から六〇万円程の金が貰えるそうだと聞かされ、自分の負傷の方は労災保険の金に頼つて何とかやれるから、原告やBに対しては示談ですましてもよいと考え、昭和三三年三月一〇日原告およびBと(イ)右両名は本件事故によるAの負傷の損害賠償としてAへ金一一万円を支払うこと、(ロ)Aは右負傷について右以上の請求をしないことを約定し、その後原告から数回にわたつて合計金一一万円の支払を受けたことが認められる。
 しかしながら、Aが昭和三三年三月一〇日までに被告から保険給付を受けた限度においてAの原告に対する損害賠償請求権は被告に帰属しているから、Aがこれを放棄し得ないことは当然である。
 なお、Aは被告から法の定める労災保険の全額の給付を受ける意思であつたことは前認定のとおりであるが、このように労災保険制度を利用して保険給付を受けようとする者は、この保険制度利用に伴う公法上の制約を受くべきことは当然である。労災法第二〇条第一項によれば、同法は労災保険の給付を受けようとする被災労働者に対し、現在は同人に帰属しているが、被告から保険給付を受けて、その結果被告に帰属することとなるべき第三者に対する損害賠償請求権を保全する公法上の義務を課しているものというべきであるから、被災労働者がこの公法上の義務に違背して第三者に対する損害賠償請求権を放棄しても、これをもつて被告に対抗することができないものといわなければならない。