全 情 報

ID番号 05025
事件名 仮処分異議申立事件
いわゆる事件名 銚子醤油事件
争点
事案概要  「一人十殺」と題する記事を掲載した共産党細胞機関誌を職場内で配布したこと等を理由として懲戒解雇された労働者が、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
裁判年月日 1958年7月18日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (モ) 11065 
裁判結果 一部取消・変更・却下
出典 労働民例集9巻4号434頁/タイムズ82号68頁
審級関係
評釈論文 季刊労働法30号89頁/高橋清一・ジュリスト177号77頁/別册労法旬316号1頁/労働経済旬報391号18頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 三、就業規則に基く懲戒は元来職場秩序の維持を目的とするものであり、また旧就業規則第六四条各号はすべて職場秩序維持の妨げとなる行為を列挙しているので、同条第一二号の不都合な行為とは職場秩序を乱す行為を指すものと解すべきところ、本件の「A」第四号の配布は前に認定したように職場内でもなされているけれども、就業時間を避け、手渡しまたは作業服に入れておくなどの方法でひそかになされたものであるから配布の方法が職場秩序を乱すものとは考えられない。したがつて「一人十殺」と題する記事の内容が問題となる唯一の事項である。右記事が「一人十殺」という表題を掲げ、「一人十殺でこの世をオサラバ、一人十殺とは一人で十人を殺す事、この場合は社長以下を指す文句であります。」と記していることは誠に不穏当であつて、この部分のみを読めば社長以下の殺害を表明したもので職場秩序を乱した場合に該当するといわれてもやむを得ないであろう。しかしながら前に認定したようにこれを配布した当時組合は賞与二ケ月分支給の要求をなして被申請人と闘争状態にあつたこと、およびこれが相当多数の従業員に配布されたがとくに異とされた跡の見られないこと、甲第三号証(「A」第四号)には右記事以外にも賞与獲得を強調する記事が随所に発見されることを念頭に、右「一人十殺」の記事全体を通読すれば、前記の不穏当な文言の存在にもかかわらず、殺害の意思を表明しあるいは殺害を教唆煽動したものとは到底解し得ず、むしろ生活の窮乏を訴えこの窮乏を脱するためには一人で十人に当る気構で団結して被申請人会社に対抗し二カ月分の賞与を是非獲得しなければならないことを強調した趣旨であることが明白である。そして前記懲戒規定が懲戒事由に該当する行為をその情状に応じて段階的に把握し、情状の重いものより順次解雇、出勤停止、減給また譴責に処する趣旨であることは規定に照し明らかであるので、右規定に基き解雇するには社会通念上解雇に価する態様情状の行為のあることを要すると解すべく、「A」第四号の記事の内容は前記のような態様に照すと懲戒規定において解雇に価するものといえない。してみれば第一次解雇は就業規則の適用を誤つたもので無効というべきである。