ID番号 | : | 05036 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | ニコニコ自動車事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 車両清掃のために会社構内で二、三〇メートルの距離を無資格運転をしたことを理由としてなされたバス車掌に対する懲戒解雇の効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 |
裁判年月日 | : | 1958年12月10日 |
裁判所名 | : | 広島地福山支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和33年 (ヨ) 82 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働民例集9巻6号902頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕 (一) 被申請人会社の就業規則がその第六〇条に「無資格者は車輛の始動又は運転を絶対にしてはならない。」旨その第一〇四条本文に「従業員にして左に掲げる各号の一に該当する時は諭旨解雇又は懲戒解雇とする。但し情状に依り出勤停止又は減給、賠償に止める事がある。」旨、又同条第一〇号に「無資格者にして車輛を運転した時、又は事故を惹起した時。」と各規定していること、申請人両名の本件無資格運転が右条項に該当することは当事者間に争いないが申請人等が本件については右第一〇四条但書の軽き処分に附するのが相当であると主張するのに対し、被申請人は右但書の情状酌量の規定は無資格者の車輛運転に関する限りその適用を排除すべきものである旨主張するので、先ずこの点を考えてみるに、就業規則は、使用者が一方的に制定するものではあるが、一種の法規範であるから、それが制定せられた以上、制定者の意思を離れた客観的存在であり、従つてその解釈及び適用は使用者の恣意に委ねらるべきではなく、使用者は客観的に妥当な解釈、適用をなすべき義務を負担しているものと解せられるところ、前記第一〇四条は、懲戒処分として、懲戒解雇、諭旨解雇、出勤停止、減給、賠償の五種段階を設け、情状により出勤停止以下の処分とする旨明示しているのであるから、無資格運転についても情状の存する限り出勤停止以下の処分に附すべきものであることは解釈上疑う余地のないところであり、従つていかなる事情が存するにもせよ被申請人主張のような無資格運転に関する限り第一〇四条但書の適用を絶対に排除するとの解釈は許されないものと云わねばならない。仮りに被申請人主張のように被申請人会社労使双方で組織する経営協議会が無資格運転につき、「理由の如何を問わず即時解雇する。」旨決定したとしてもこれがため就業規則の解釈、適用上叙上の説示と結論を異にするものではない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕 本件各無資格運転については、被申請人会社の指示に反し且つ強く非難さるべきものとは云え、いずれも公共の危険を招く虞れの殆んどない被申請人会社の構内である車庫内においてなされたものであり、且つ清掃のためになされたもので単なる車輛起動の欲求に駈られてなしたものではなく、その運転距離も申請人Aにおいては二、三〇米、申請人Bにおいては僅か二、三米に過ぎず、しかも申請人両名の無資格運転により生じた損害額も高々数百円の軽微な損害であつて、被申請人会社に特段の営業上の支障を与えたものでないこと前叙の如くである以上、無資格運転としては軽度の部類に属するものと認むべく、これに対し前記各種の懲戒処分中、他の処罰から飛躍して直ちに労働者の死命を制するに等しい極刑である懲戒解雇の処分を以て臨むことは酷に失する処置と云うを得べく、右各懲戒解雇処分は就業規則の適用を誤つた違法のものたるを免れない。従つて本件懲戒解雇処分が無効であるとの申請人等の主張はその余の判断をするまでもなく相当として容認すべきである。 |