ID番号 | : | 05037 |
事件名 | : | 療養補償支給に関する処分取消等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 四日市労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 製油会社で製油原料の入っている袋(六五キログラムから一〇〇キログラム)を手かぎ等を用いてコンベアーのところまで引きずっていき開封し、コンベアーに原料を放出する仕事を約七年間やってきた労働者の腰痛が業務上の事由によるものか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法75条 労働者災害補償保険法7条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病 |
裁判年月日 | : | 1979年1月18日 |
裁判所名 | : | 津地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和48年 (行ウ) 7 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 訟務月報25巻6号1606頁 |
審級関係 | : | 控訴審/名古屋高/ . ./昭和54年(行コ)1号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕 原告の本件腰痛が業務上の疾病といえるか否かについて判断することにする。 まず、原告の腰痛が労働基準法施行規則三五条一号ないし三七号に該当しないことは明らかである。 そこで、同条三八号に該当するか否かについて検討するに、同規定は、労働基準法七五条一、二項に基づき設けられた規定であり、労働基準法施行規則三五条一号ないし三七号に定める疾病は何れも業務上に起因することが定型的に認められるものであるが、本来業務に起因する疾病は多様であり一号から三七号に含まれないものも存するために右三八号が設けられる必要があつたと考えられることからすれば、三八号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」とは業務遂行との間に相当因果関係の存することが証明された疾病と解するのが相当である。 ところで、変形性脊椎症については脊椎の変形は加令現象の一つであり、腰部椎間板症については変形性脊椎症の前段階において加令化によりおこることがあることは前記のとおりであり、腰筋痛についてはその原因が必ずしも明らかでない。しかし、以上のことから直ちに原告の腰痛と業務遂行との間に相当因果関係が存しないと断ずることは相当ではなく、業務内容、業務従事期間等の点においてそれが日常動作に比してより過重な腰部の運動、過重の負荷が加わるものであり、なお、同種業務に従事した労働者間にも病的な腰痛が見られるものであるならば、このような場合における腰痛は業務との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。 〔中略〕 2 原告の従事していた前処理作業とは、原料倉庫に積まれている製油原料のヒマシ種子の入つた袋(一〇〇キログラムの袋と六五キログラムの袋の二種類)を手かぎ等を使つて床に設けてあるピツト(前処理作業場の奥から出入口に向つて床に設けてある細長い溝)の近くまで引きずつて行き、ナイフで開袋し、ピツトを走るベルトコンベアー(なお昭和四一年六月まではスクリユーコンベアーであつた)にヒマシ種子を放出する作業であるが、その作業をより詳しく説明すると、原告が前処理作業に従事していたA会社の原料倉庫は、ピツトを間にしその両側に原料袋が積まれ、積み上げられた原料袋の最高部でピツトに面した最前列に積まれている原料袋については、その閉口部分の縫糸をナイフで切断すると原料袋が開口し中に入つているヒマシ種子が自然に、あるいは袋の後部を持ち上げることにより流出して下のピツトに落下し、次に、先に処理した原料袋の後部に積まれている原料袋をピツトに面した位置にくるようにノンコ(約一〇センチメートルの長さの棒状の木の先端に鈎をとりつけたもの)と手かぎを使つて引きずりおろし、前述の方法で開袋する。以後順次同様な方法で作業を反復継続するわけであるが、作業が進むと当初直方体に積まれていた原料袋は、ちようどひな壇のような形状になり、原料袋をピツトに面した最前列の位置まで持つてくるにはひな壇状になつた原料袋の上部に積まれている原料袋をひな壇面を滑らすようにして引きずりおろすという方法をとる。作業は積み上げられた原料袋をひな壇の形状に保ちつつ進行させ、作業が進行してひな壇の傾斜角度がなくなり平面になつた状態が最低部になると二人一組になり原料袋の前部を手かぎでひつかけ、原料袋の閉口部分がピツトの上にかぶさる程度になる位置まで引つぱつてきて開袋するというものであり、原料袋をひつぱり開袋するまでの所要時間は一袋につき約一分半ないし二分位である。 3 昭和三六年四月から同四一年九月頃までは昼夜二交代制で昼勤四人、夜勤四人の計八名が前処理作業に従事し、その後は昼勤のみになり、昭和四三年以降同四六年一月までは一〇名位のグループで右作業をしていた。A会社の所定労働時間は午前八時から午後四時までだが、前処理作業の実作業時間割は現場で自主的に定められ、同四五年二月頃までは始業時である午前八時から約一五分間を準備期間、終業直前の約二〇分間を整理時間とし、休憩としては午前一一時三〇分から午後〇時一五分までの昼の休憩のほかに午前、午後に各一回一五分と定めていたが、同年三月からは、準備時間と整理時間を各約三〇分にのばし、休憩時間についても昼は六〇分、午前、午後の休憩を各三〇分と延長し、実作業時間は従来の六時間一〇分が五時間に短縮された。 4 昭和四六年一月末までは、A会社直営の製造課原料前処理班として、完全月給制による従業員六、七名及び少数の下請労働者を右作業に従事させていたが、同年二月一日以降は全面的にB会社に下請させ、四、五名が従事し、賃金についても出来高給に改められた。 また、一日当たりの全処理数量は、八五トンないし九〇トン(六五キログラム袋なら一三〇〇袋ないし一四〇〇袋、一〇〇キログラム袋なら八五〇袋ないし九〇〇袋)で、直営の時には平均九・一人従事していたので一人当たり九・三一トン、下請となつてからは、それを平均四・三人で処理しており一人当たり二二・二三トンを扱うようになつている(そうすると一〇〇キログラム袋なら直営時には九三袋前後扱つていたものが下請になつてからは二二二袋前後を扱う計算になる。) 5 昭和四五年一二月一日当時前処理班に属していたA会社従業員は、原告以外に六名いて、全員が同日公立C大学医学部附属D病院整形外科E医師の診察を受けた。その結果、そのうちのFは腰痛症、Gは腰筋痛、変形性脊椎症、H、Iは変形性脊椎症、骨粗鬆症、腰部椎間板症、腰筋痛、J、Kは変形性脊椎症、腰部椎間板症、腰筋痛の診断を受けたが、その際治療はうけておらず、右六名はいずれも腰痛その他変形性脊椎症によるとみられる欠勤は一回もなく、また、同年一一月二七、八日頃築港病院でこれら六名が受診した際、特に異常は認められなかつた。また、下請のB会社の従業員の中で腰痛を訴える者は一人も出ていない。 〔中略〕 以上の事情を総合すると、原告の腰痛と本件前処理作業の間に未だ相当因果関係があるとは認めることはできず、他に右因果関係を推認させる証拠もない。 なお、原告は業務起因性を認めるのに三つの要件を上げているが、前述のとおり腰痛が前処理班に多発しているということはなく、原告主張の三要件のうち本件においては第二の要件が欠けており、右三要件による業務起因性を判断するとしても、原告の腰痛を業務上の疾病ということはできない。 |