ID番号 | : | 05044 |
事件名 | : | 遺族補償等不給付処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 橋本労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 交通の不便な山間僻地の発電所に勤務している電力会社の職員が、通常の通勤日にバスに乗り遅れたため自己所有の原動機付きの自転車を運転して自宅を出て出勤する途中に県道から転落して死亡した事故につき、業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法1条 労働者災害補償保険法12条 労働基準法79条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 通勤途上その他の事由 |
裁判年月日 | : | 1979年12月7日 |
裁判所名 | : | 最高二小 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和54年 (行ツ) 24 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 時報954号14頁/タイムズ407号76頁/訟務月報26巻3号470頁/裁判集民128号169頁 |
審級関係 | : | 控訴審/05187/大阪高/昭53.11.30/昭和53年(行コ)28号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-通勤途上その他の事由〕 原審が適法に確定したところによると、(1) 被上告人の夫Aは、B株式会社に雇傭され、小森発電所において右発電所及びダムの保守、管理をする土木係員をしていた、(2) 小森発電所は、熊野市の中心部から二十数キロメートル、最寄りのバス停留所Cからも十数キロメートルの山間僻地にあり、Aを含む小森発電所の従業員のほとんどは、同市中心部のD社宅に居住していた、(3) 通勤には通常全区間社有車が配車されるが、日曜日等は熊野市駅前とC間の路線バス(一日三あるいは四往復)及びCと小森発電所間の社有車とを乗り継ぎ通勤するのを例としていた、また、社宅居住者が通勤のため熊野市中心部からCまでタクシーを利用することは、会社の認めているところではなく、運賃は利用する者の負担とされていたから、社宅居住者は出勤に際し、予定のバスの利用を逸した場合には通常出勤を断念し、その日の年次休暇を請求するのを例としていた、(4) Aは、昭和四六年一二月一二日小森発電所において午後五時から同一〇時までの第二直勤務を行うことになつていたので、社宅近くの熊野市駅前午後一時三〇分発のバスに乗る予定をしていたところ、右バスに乗り遅れ、次のバスでは右通勤時刻に間に合わないため、自己所有の原動機付自転車を運転して出勤したところ、同日午後四時ころ峠越えの山間難路において道路わきに転落し、頭部に打撲を受け脳出血のため死亡するに至つた、(5) 本件事故当日は日曜日のため小森発電所には直勤務者以外の者は出勤していなかつたため、Aが当日突然休暇をとれば、第一直勤務に従事していた者が引き続いて時間外勤務をしてAの第二直勤務をせざるをえない状況にあつたが、さらに当日は労働組合の指令により全組合員を対象に時間外、休日労働、宿・日直拒否闘争が実施されていたから、代直者の獲得が困難であり、また、Aの勤務の内容は、同人が勤務につかない場合直勤務をする者がいないまま発電所を放置しておくことは許されない性質のものであつた、というのである。 右の事実関係によれば、Aは、山間僻地の発電所と社宅間を社有車(日曜日等は社有車及びバス)を利用して通勤していたものであつて、右の交通機関を利用する以外に通常は往復の方法がなく、本件における前記の事情に照らせば、Aは当日出勤せざるをえない状況にあり、本件原動機付自転車による通勤も他に合理的な交通手段がないためやむをえない代替方法ということができるから、本件災害は、出勤途中の災害ではあるが、労働者が使用者の支配管理下におかれているとみられる特別の事情のもとにおいて生じたものと解しえないわけではない。したがつて、本件災害が、昭和四八年法律第八五号による改正前の労働者災害補償保険法一条、一二条二項、労働基準法七九条、八〇条の業務上の事由による災害にあたるとした原審の判断は、その結論において正当として是認することができる。 |