ID番号 | : | 05045 |
事件名 | : | 労働者災害補償保険金不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 熊谷労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 上司から私的な通勤手段確保のため最寄りの駅まで会社所有の自転車の運搬を命じられた職員がその自転車に乗って帰宅の途上にある最寄りの駅に向けて進行中に溝に落ちて負傷した事故につき業務上の災害に当るか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法1条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 通勤途上その他の事由 |
裁判年月日 | : | 1980年5月21日 |
裁判所名 | : | 浦和地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和53年 (行ウ) 9 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | タイムズ427号103頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-通勤途上その他の事由〕 4 ところで、A工場長は、昭和四八年九月一七日(本件負傷の当日)、就業時間後に、銀行勤務の自分の娘を東京工場に呼んで、事務職員のBに対しテレックスの繰作を指導してもらうことになり、指導終了後は娘とともに自動車で帰宅する予定であつたので、同日午後五時過ぎごろ、退勤する原告に対して、駅まで本件自転車に乗つて行つて下さいと指示した。 5 他方、原告は、当時六七歳であり、右足に骨髄炎等の既往症があつて、もともと自転車に乗ることには不安があり、しかも、そのころ小雨が降つていたので、A工場長の右指示に困惑したが、上司の命令であつては仕方ないと考え、同日午後五時四〇分ごろ、片手で洋傘を差しながら、本件自転車に乗つて東京工場を出、C駅に向う途中、本件負傷の事故に遭つた。〈証拠判断略〉 以上の事実関係によると、原告は、当日の退勤時において、東京工場従業員の監督者であり、本件自転車の保管責任者でもあるA工場長から、特に、本件自転車に乗つてC駅まで行くことを命ぜられたもの(この命令が、翌日の同工場長の出勤のために、本件自転車を恒例の駅前空地まで運び、同所に施錠して置いておく内容をも包含することは、いうまでもないところである。)と認めるのが相当であるから、この特命に従つて本件自転車に乗つて帰る途中に生じた本件負傷は、原告にとつて、通退勤途中の災害ではあるが、右特命の加えられたことによつて、労働者が使用者の支配管理下に置かれていたとみられる特別の事情のもとに生じたものと解することができる。 なお、被告は、原告が本件自転車を運んだ行為について、A工場長の命令によるとしても、同工場長の私的依頼に過ぎないとか、業務遂行性のない工場長の通勤行為の幇助であるとか主張して、その業務性を否定しようとする。しかし、業務性があるかどうかは、当該命令者の主観的事情とは関係なく、客観的に決められるべきものであるから、仮に、同工場長が私用のための依頼と認識していたとしても、通勤用として使用することを許されている会社所有の自転車について、その権限ある同工場長から乗車兼運搬が命令されている以上、これに従つた行為に業務性がないという理由はないし、また、同工場長が原告に命令した意図が翌朝の自己の通勤手段確保にあつたことは、そのとおりであるけれども、その工場長の通勤行為が、労働者としての工場長自身について、労災法上の「業務上」の範ちゆうに入るかどうかと、原告の本件行為の業務性の有無とは別個の問題であるから、本件について業務遂行性を否定する被告の根拠は、いずれも失当というべきである。 以上のとおりであつて、結局、本件負傷は、労災法の業務上の事由によつて生じた災害にあたるから、これに反する理由に基づいてした本件処分は違法であり、取消を免れない。 |