ID番号 | : | 05046 |
事件名 | : | 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 札幌労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 高血圧症の基礎疾病を有する運輸会社の作業員が荷物仕分け作業中に高血圧性脳出血で倒れその後死亡したケースで、業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法79条 労働者災害補償保険法7条1項 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1980年7月4日 |
裁判所名 | : | 札幌地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和53年 (行ウ) 13 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 時報995号45頁 |
審級関係 | : | 控訴審/05076/札幌高/昭59. 5.15/昭和55年(行コ)5号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 訴外人は午前九時三六分に出勤後、前日出荷された荷物の発送状況、伝票の整理・点検を行なった後午前一一時頃市営バスでA電機に出向した。出向後、出荷依頼のあった荷物について伝票に重量・運賃を記入して出荷準備をして午後三時頃集荷車(一〇トン車)が到着し、伝票と荷物(重量五六七一キログラム)を点検し運転手のBに積込みを指示し、右集荷車に同乗して午後四時頃訴外会社の発送ターミナルに戻り、午後四時二〇分頃から午後五時頃まで同車の荷物の取り降し及び送り先方面別の仕訳作業を訴外人を含め三人ないし五人で行なっていた。午後五時一〇分頃、訴外人の挙動がおかしいことに同僚のCが気づき、訴外人を病院に収容した後、死亡するに至った。 当日の札幌の天候は良好で午後三時には気温二七・一度、湿度六四パーセントあり、貨車内の温度は外気温に比べて数度は高かった。 以上のとおり認められる。 (三) ところで「労働者が業務上死亡したとき」(労災保険法第一二条の八第二項、労基法第七九条、第八〇条参照)とは、労働者が業務に起因して死亡した場合をいい、右業務と死亡との間には相当因果関係の存在が必要というべきであるから、当該業務に就かなかったら当該疾病にかからなかったであろうという単なる条件関係があるだけでは足りず労働者が高血圧症等の基礎疾病を有する場合には、当該業務が基礎疾病を増悪させて死亡の時期を早める等それが基礎疾病と共働原因となって死亡の結果を招いたものと認められなければならないと解すべきである。 これを本件についてみるに、前記認定事実に《証拠略》を総合すると、訴外人は高血圧症という基礎疾病を有していたところ、炭砿の閉山という自己の予期せぬ事情により転職を余儀なくされ、訴外会社へ再就職後の連続する残業及び休日出勤の反復により疲労が徐々に蓄積され、作業責任者としての精神的緊張も加わり、これが為とくに昭和四九年七月ころには血圧が上昇し高血圧症による血管障害を相当進行させたと推認されるうえ、発病当日には訴外会社に再就職後初めての夏期の高温の貨車内での作業という肉体的負担も加わり、遂に脳出血を発症して死亡したものと推認することができる。 被告は高温下では血圧は低下し、血圧上昇について高温下の作業の影響は考えられない旨主張するが、証人Dの証言によれば、安静状態では血圧低下は認められるが、高温下では運動量が増し疲労の蓄積状態も異なるから高温下の作業は血圧上昇の原因となることが認められることに徴し、被告の前記主張は採用しがたい。 してみると、訴外人の死亡は基礎疾病たる高血圧症が同人の従事していた業務によって増悪され、基礎疾病と業務との共働原因に基づくものであるから、業務に起因すると認めるのが相当である。 |