全 情 報

ID番号 05047
事件名 遺族補償金等請求事件
いわゆる事件名 八雲郵便局職員事件
争点
事案概要  簡易生命保険の保険料払込み団体である旅行会の旅行に随行した郵便局員の旅行先での急性心臓死につき公務上の死亡に当るか否かが争われた事例。
参照法条 国家公務員災害補償法15条
国家公務員災害補償法23条
労働基準法79条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1980年9月10日
裁判所名 松江地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 102 
裁判結果 認容(確定)
出典 時報1009号114頁/タイムズ430号106頁/労働判例350号16頁/訟務月報26巻12号2160頁
審級関係
評釈論文 井上浩・労働判例350号12頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 先に認定した事実によれば、この種の旅行会が約款上は郵便局とは別個独立の団体であることは明らかであるが、実質上は郵便局によつて保険募集業務の一方法として組織されるものであつて、本件旅行会も昭和四八年一二月に同様にして組織されたものであること、このようにして組織された旅行会は自主性がとぼしく、昭和五〇年当時には事務局が当該郵便局内に置かれ、事務局長に当該郵便局長、事務局員に保険担当局員が就任し、これらの局員によつて日常事務が処理されており、本件旅行会についても昭和五〇年当時には事務局が八雲郵便局内におかれ、事務局長に八雲郵便局長A、事務局員に保険担当局員が就任し、同局員らによつて旅行積立金の保管、加入者保険証書の預り等の日常事務が処理されていたこと、本件旅行のような団体旅行はこの種旅行会の本来の目的であつて、保険担当局員による旅行随行は保険募集業務を円滑に遂行する上で利点をもち、会員の側では局員が旅行に随行して世話をするのが当然であるという意識をもち、局員の側でも旅行に随行して世話をしなければならないという意識があつたこと、昭和五〇年以前においてはこの種の旅行について局員の随行が常態化していたことが認められる。したがつて、実際上は、昭和五〇年当時においては、八雲郵便局の保険募集業務と本件旅行の随行を含む本件旅行会の事務との区別があいまいなままの状態で同郵便局員らによつて処理されるという運用がなされていたものとみることができる。
 しかも、Bの本件旅行への随行は、同人が一たんこれを断わつたにもかかわらず八雲郵便局A局長から再度随行を強く要請されたことによるものであつて、又、旅行先のBからA局長に対し毎日旅行経過の報告が行われていたことからみると、A局長のBに対する本件旅行の随行要請は、正式に業務命令であると明示されたものでないとはいえ特別の業務命令と同視しうる実質をもつていたものと理解できる。もつとも、Bによる本件旅行の随行について年次休暇扱いがなされているが、これは前記通達との抵触をさけるためにとられた形式上の措置であつて、このことによつて右要請が業務命令の実質をもつことを直ちに否定することになるとは考えられない。
 このようにみると、Bの本件旅行への随行は保険募集業務に附随するものとみうるのであり、旅行会による被告の保険募集業務を円滑に実行するために直接的、具体的に関連する行為であると認められ、しかも、前記特別の業務命令に基づくものである。そして、Bが本件旅行先で会員に対して行つた世話も、随行の過程のうちで保険募集業務を円滑に遂行するという目的に向けられたサービス的延長として必然的に伴う行動というを妨げない。もつとも、前記業務命令の内容は、Bを本件旅行に随行させるという一般的概括的なものであるが、Bの本件旅行先での行動が随行に必然的に伴い、しかも保険募集業務の円滑な遂行という目的に向けられたものとみうるものである以上、旅行先の個々の行動に対する具体的命令がなくとも、それが業務命令に基づかないものとみることはできない。したがつて、Bによる本件旅行の随行はもとよりのこと、旅行先での会員に対する世話も、前記業務命令と相まつて業務遂行性を有するものとみることができる。
 被告が「会員外の旅行参加は適当でないこと」、「職員の旅行参加は年次休暇を利用して行うこと」等の通達を出していることは前記認定のとおりであるが、旅行随行が保険募集業務に前記のような利点をもつこともあつて、昭和五〇年当時においては右通達が必ずしも徹底された形で運用されていたとはいえなかつた。しかも、Bの本件旅行随行に対する八雲郵便局長の業務命令が右通達に違反するものであつたとしても、Bの上司であるA局長が保険募集業務に附随する本件旅行の随行について業務命令を出しうることにかわりはないから、右通達違反の点は、被告の業務運営の必要上その内部関係における処理の問題を残すにとどまり、Bに対する関係で業務命令の効力を否定することはできないものというべきである。したがつて、右のような通達の存在及び業務命令の通達違反ということをもつてしても、Bの本件旅行随行行為の業務遂行性認定の妨げとはならない。
 (3) Bの死亡の公務起因性
 公務上の死亡は、公務遂行に起因することを要するが、死亡原因が公務遂行と他の原因との競合によるものと認められる場合でも公務の遂行が相対的に有力的な原因であれば死亡は公務遂行に起因するものと認められる。
 してみれば、Bの死亡の原因は急性心臓死であつて、急性心臓死の原因として本件旅行中における心身の過労状態が重要因子であると認められ、しかも、本件旅行中の行動に公務遂行性が認められるものであるから、Bの死亡は公務遂行に起因するものというべきである。