ID番号 | : | 05054 |
事件名 | : | 療養補償給付不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 毎日新聞社・中央労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 新聞社において鉛版鋳造等の作業に従事してきた労働者が頭痛、倦怠感等の症状は鉛中毒によるものであるとして療養補償を請求した事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法12条(旧) 労働基準法75条 労働基準法施行規則35条14号 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病 |
裁判年月日 | : | 1981年11月19日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和51年 (行ウ) 181 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 時報1028号113頁/労働判例378号38頁/訟務月報28巻2号310頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕 前記第三認定のように、鉛中毒症の症状のほとんどすべては鉛中毒特有のものではなく他の疾病によっても十分起こりうるものであり(前記一の2認定の原告の症状もその例外ではないと考えられる。)しかも、鉛中毒症は前記第二認定のように鉛が体内に吸収蓄積されることによって引き起こされるものなのであるから、鉛の曝露を受ける可能性のある環境にない労働者が右のような鉛中毒症によってもまた他の疾病によっても起こりうる症状を呈したからといって、通常は、鉛中毒症によるものであることを疑う余地はなく(《証拠略》によれば、一般人も日常生活において空気中及び食品中に存在する微量の鉛を摂取しているが、これによっては鉛中毒症にかかることはないものと認められる。)、その症状は鉛中毒症以外の他の原因によるものと推認されることになるのであり、鉛を曝露する可能性のある環境のもとにあった労働者について右のような症状があらわれた場合にはじめて、鉛中毒症をも疑う可能性が生ずるのである。そして、鉛に曝露する可能性のある環境にある労働者すべてが鉛中毒症にかかるというものではなく(労働者の個人差は当然考えられる。)また右のような環境にある労働者が右のような症状を呈する他の疾病にかかる可能性は十分にありうることと考えられるところであるから、労働者が鉛を曝露する可能性のある環境に置かれたのちに鉛中毒症によっても発現しうる症状を呈しはじめたからといって、それだけでは、それが鉛中毒症によるものか他の原因によるものかの優劣は直ちに決し難いものであり、それが鉛中毒症によるものと直ちに推認することはできないものといわなければならない。以上のように、鉛に曝露する可能性のある環境に置かれた労働者がその後鉛中毒症によっても発現しうる症状を呈したことは、鉛中毒症をも疑う前提要件となるにすぎないものであるから、右症状が鉛中毒症によるものであることを推認するためには、更にそれを強く疑わせる他の客観的な証憑が加わることが必要とされるものといわなければならない。 そして、前記第三認定の事実によれば、今日においては、血中鉛、尿中鉛、尿中コプロポルフィリン、尿中デルタアミノレブリン酸、血色素量、全血比重、好塩基斑点赤血球数、デルタアミノレブリン酸脱水素酵素の活性等の、臨床医学的検査を行うことにより、患者に対する鉛曝露の程度、患者の体内への鉛の吸収・蓄積の程度などについて、かなり客観的な判断を行うことができるようになっていることが認められるから、鉛中毒症であるかどうかの判断にあたってはこのような臨床医学的指標を全く無視することは相当でなく、右のような臨床医学的検査をすることができる場合には、必ずその検査を行い、その結果を参照したうえで(右検査結果が異常を示した場合にはそれ自体鉛中毒症を推認する有力な証憑たりうるとともに、それが正常範囲にとどまる場合には他の証憑に対する有力な反証たりうるものと解すべきである。)、それとそれ以外の証憑とを総合的に検討して鉛中毒症かどうかの判定をするのが相当と解すべきである。 〔中略〕 九 以上検討したところによれば、原告は、鉛曝露による有害作用を受けうる環境の下で業務に従事したのち鉛中毒症によっても発現しうる症状を呈したものではあるが、これが、過去又は最近における鉛の曝露吸収に基づいて発生したものと推認させるような的確な証憑は認められないから、原告が鉛中毒症にかかっているものと推認することはできない。 第六 業務上の事由によるものかどうかの判断 以上のとおり、原告の本件疾病については、いまだこれを鉛中毒症と認めるに足りないものであり、他に、原告の右疾病が職場における鉛曝露以外の業務上の他の何らかの事由に起因するものであることを窺わせる事情もまた認められないから、原告の本件疾病をもって業務上の事由によるものということはできない。 |