全 情 報

ID番号 05062
事件名 休業補償費不給付処分取消請求事件
いわゆる事件名 佐賀労基署長(ブリジストンタイヤ)事件
争点
事案概要  休憩時間中に行なわれた業間体操に引き続き就業時間に若干ずれこんで行われたハンドボールの際の負傷事故が業務上の負傷に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法76条
労働者災害補償保険法12条の8
労働者災害補償保険法14条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 休憩時間中
裁判年月日 1982年11月5日
裁判所名 佐賀地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (行ウ) 4 
裁判結果 認容(確定)
出典 労働民例集33巻6号937頁/労経速報1147号3頁/訟務月報29巻6号1103頁
審級関係
評釈論文 加藤智章・日本労働法学会誌62号138頁/岩出誠・ジュリスト823号112頁/佐藤進・労働判例397号4頁/中嶋士元也・季刊実務民事法4号238頁/良永弥太郎・季刊労働法129号127頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-休憩時間中〕
 (一) 本件事故のあつた簡易ゲームは、休憩時間中の二〇時五五分ごろから行われた業間体操に引き続いて、作業開始までの僅か一〇分ないし一五分くらいの間に行われたものであるが、右業間体操は、職場体操として、毎回始業前、休憩時間後、終業時に各職場において全員参加して必ず行われるもので、その内容は、会社が体育専門家により、その職場環境にマツチした基本的体操として考案されたものであり、その目的は、作業を開始するに当つての身心の準備や勤務中の気分転換、疲労防止、回復をはかることにあり、その実施については、会社の研修所において所定の訓練を受けた体育リーダーの指揮のもとに行なわれるものであつて、それはいわば作業のための準備行為と目すべき性格のものと考えられる。
 (二) 次に簡易ゲームは、各班別に行われる体育活動の一つであるが、会社はこれについても前記職場体操をも含めた生産体育の一環として積極的に推進していた(労働安全衛生法七〇条によれば事業者は労働者の健康の保持増進を図るための必要な措置を講ずべき義務が定められている)。
 すなわち、会社は右生産体育は企業の人的資本の充実、人的原因による災害の減少、欠勤率の減少に資するものと考えており、その指導に当る者として体育推進員及び体育リーダーの制度を設け、体育推進員は各班の従業員によつて選出されることにはなつているが、事実上はその班の職長が選ばれる慣行になつており、体育リーダーは、会社の研修所においてそのための所定の訓練を受けた者の中から主任または職長が選任することになつており、事実上は職長の次くらいの地位の者が交替制で選ばれていた。そして従業員は職場の上司でもあるこれら体育推進員らからできるかぎり参加するよう指導され、参加しないことによつて人事や給与面で不利益を受けることはないにしても、事実上は病気や負傷などやむをえない事由でもないかぎりこれに参加せざるをえない状態にあつたものである。
 また、会社は、業務に支障がないかぎり右簡易ゲーム等が若干就業時間にくい込んで行われることを黙認していたものであるが、これは当時石油危機に起因して減産態勢をとつていたことのほか、会社がこれら職場における体育活動を積極的に推進しようとする立場をとつていたことと無関係ではないと考えられる。
 (三) 更に、本件簡易ゲームは、前記作業の準備行為ともいうべき業間体操に引き続いて就業時間にくい込んで行われたものであり、しかも右ゲームの終了時間は別に定めていなかつたから、従業員としては、仮に右ゲームに参加しなかつたとしても、いつゲームが終了して作業が開始されるか分らず、常に作業開始に備えて待機していなければならず、その間に私的行動をする余裕はなかつたと考えられる。
 また、原告らの従事していた作業は三交替二四時間勤務体制の下にあるいわゆる流れ作業であつて、不参加者だけがその間にひとりで作業を開始することはできない状態であつた。したがつて従業員としては、いわばその間は、右ゲームに参加するか、就業に備えて待機するかのいずれかを選択するしかない状態であつたということができる。その点で全く私的行動の自由が保障された休憩時間とは異なり、右簡易ゲームの行われた時間を休憩時間が延長されたものとみるのは相当ではない。したがつて同じく簡易ゲームが行われるとしても、本来の休憩時間中や終業後などに行われる場合に比して本件の場合は右ゲームに参加しない自由がより制約されていたとみなければならない。
 (四) 以上の(一)ないし(三)の事情を総合して判断すると、本件簡易ゲームは、従業員が休憩時間中にかつてに行う私的ゲームなどとは異なり、より拘束性の強いものであつて、会社の業務と密接な関連性を有する行為とみることができ、これをもつて被告主張のように私的行為と評価すべきであるというのは当を得ず、従つてその間に発生した本件事故も右業務に起因するものと認めるのが相当であり、右認定を覆すに足る証拠はない。